ボクシングの面白さの、やるか、やられるか。世界の頂点を争うにもふさわしい、迫力あるファイトだった。WBC世界ヘビー級王者デオンタイ・ワイルダー(32=米国)が7連続KO防衛した。挑戦者の同級3位ルイス・オルティス(38=キューバ)も逆転へあと1歩まで追い込み、手に汗握る試合になった。

 ワイルダーは10月には33歳になる。3月3日の試合もあって「好きな数字」と3回KO宣言していた。実際には慎重な試合運びでブーイングも浴びた。相手の強さを認めて、体も97・4キロまで絞っていた。12キロ差もリーチを生かして左を突いて踏み込ませない。大振りは少なくコンパクトで、さぐり合い、神経戦の序盤となった。

 5回についに右ストレート1発が入った。畳み掛けて最初のダウンを奪う。ゴングに救われたオルティスに7回には反撃を食った。右フックからラッシュをクリンチ、ホールドで必死に逃げる。ロープを背にグラグラのKO寸前だった。

 オルティスはアマ王国キューバ出身で、五輪こそ出てないが30歳のプロ転向まで349勝19敗の戦績を持つ。テクニックもあり、フットワークのよさもみせた。14年にWBA暫定王座獲得もドーピング違反で空白をつくった。高血圧治療のためで、強さに対戦も敬遠されていたが、待望の試合で強さを示した。

 39戦全勝(38KO)の王者陥落かとも思われたが徐々に回復し、逆にオルティスはスタミナが奪われていた。ワイルダーが10回に右からラッシュで再びダウンを奪い、最後は右アッパーで仕留めた。最後はまさにワイルドならしい攻撃だった。「この惑星一番の最強王者だ。食物連鎖のトップがオレ」。こういうユニークなコメントも魅力の一つだろうが、世界ヘビー級戦線の準決勝第1試合だったと言える。

 31日に英国で、WBAスーパー&IBF王者アンソニー・ジョシュア(28=英国)とWBO王者ジョセフ・パーカー(26=ニュージーランド)が激突する。準決勝第2試合も無敗対決だが、ナイジェリア系のジョシュア優位は動かないところ。昨年元統一王者ウラジミール・クリチコ(ウクライナ)と9万人の前でダウン応酬の激闘を演じ、劇的11回TKOを飾った。ロンドン五輪で金メダルを獲得してプロ入りし、20戦オールKO勝ちしている。

 ヘビー級は時代ごとにアリ、タイソンらが世界の注目を集め、脚光を浴びた。その後はクリチコが強すぎて注目度が下降した。何よりも本場の本家米国にスターが不在だったのが大きかった。ここにきてワイルダーが現れ、強打に個性を発揮している。ボクシング母国の英国にもジョシュアというライバルがいて、願ってもない展開になってきた。早く決勝の全勝対決が見たいものだ。【河合香】