名古屋の土俵は年6場所の中で最も滑りやすい、との声が出る。引き合いに出されるのは砂だが、使われているのは「木曽砂」という、いわば公園にある砂場と同じ自然の砂だ。それよりも滑る要因は、土にもある。

 かつての愛知県体育館は土俵を照らす照明の熱量と空調とのバランスが悪く、土俵まわりの人は「暑い」と扇子であおぎ、後方では「寒い」とバスタオルを羽織る光景があった。今でこそ空調は改良されたが、土俵が乾きやすくなった。土と砂を用意する安藤組は「土俵祭の際はいい土俵だと思っていても、乾燥して縮み、初日にはもうひびが入る」という。

 水をまけば滑りは止められるが、量が多ければ土がえぐれる。昨年9日目、白鵬は右足親指がえぐれた土に引っかかり、勢に敗れた。このけがで失速した。

 隠岐の海が提言する。「打ち出し後、土俵の砂を真ん中に集めて、端から水をまくだけでいいんです。夜にしっかりまくと、次の日は少しの量で染みる。砂の上からまいても、砂がぬれるだけですぐ乾く。稽古場でも同じです。なんなら自分がやりたいですね」。

 力の出るより良い環境を、少しでも。【今村健人】