助産師ボクサーが産科の窮状を訴えた。8日のダブルWBC女子世界戦を控えた王者2人が2日、都内で公開スパーリングした。ライトフライ級暫定王者富樫直美(33=ワタナベ)は元ミニフライ級王者菊地奈々子(33)との初防衛戦。仕事と両立しながらの調整で順調な仕上がりをアピールも、問題の妊婦たらい回しには国の対応を強く願った。

 控えめだった富樫の口調が強くなった。最近よく起きている妊婦のたらい回しを問われた時。「早く国に対策をとってもらいたい。助産師も医師も食事を取らず、寝ずに走り回っているのが現実。現場では対応しきれない。事故につながります」。産科が抱える窮状を強く訴えた。

 王座は韓国と海外で奪取した。初防衛戦は地元での晴れ舞台に、今回は特別に9日間の休みを取った。しかし、それまでは夜勤を代わってもらう以外は、3交代制の通常勤務。「周囲に支えられて両立している」というが、並大抵ではない。

 夜勤は午後11時から午前8時半まで。月に8日ある。「お産は夜が多いし、朝まで腰をさすったり。歳だし、だるくて、疲れて…」と、夜勤明けはランニングできない。自炊生活だが、コンビニ弁当で済ますことも多い。月8日ある休日も練習と休養で終わる。

 さらに近隣の産科病院の廃業、産科の廃止のしわ寄せもある。9月は出産が多い時期だが、通常より20件多い90件。3台の分娩(ぶんべん)台は空くことがなかった。それでもボクシングはやめない。仕事とは別と考えて、患者にも知られていないが「苦しみの後に喜びがある。どちらも命懸け。学ぶことは多い」と話す。

 相手は元王者で、プロで3倍の12戦を経験している。助産師ボクサーとして注目され「前は誰?

 って感じ。女子レベルの評価もされるヤマ場だが、精神面の成長の実感がある」。仕事では人を助けるが、リングでは助けを借りずに、ベルトを守るつもりだ。【河合香】