言葉を失ってしまいました。本割で熱海富士が負けて優勝決定戦は4人かな、ともえ戦かな、一発勝負の2人かな? と結びの一番まで熱戦が続いて迎えた2人による優勝決定戦で、まさかの注文相撲です。貴景勝の気持ちも分からないではありません。私も立ち合いの変化で優勝を決めた相撲がありました。手の指を痛めていて、まともに相撲が取れなかったんです。終わった後、相手の琴錦さん(朝日山親方)に謝りに行った覚えがあります。でもこの日の2人には大きな力の差があります。それだけにファンはガッカリしたでしょうし、真っ向から立ち向かってくる21歳にキッチリと当たってほしかったと思います。

相撲ファンも期待していただけにスッキリはしないでしょう。変化は取組前から考えていたと思います。貴景勝の立場からすれば、勝ちたいという、貪欲さの表れだったのかもしれません。ただ、これも相撲なのかなとも思います。強いばかりでなく弱さが出るのも相撲です。

一方の熱海富士は、本割で相撲を取る前のルーティンが、いつもと少し違う動きでした。相当、緊張していたんでしょう。そして朝乃山に敗れました。精神的にものすごく苦しい中、優勝決定戦は思い切り踏み込みました。これは評価できるし立派です。次につながる相撲を今場所は取りました。私から殊勲賞をあげたいぐらいです。(日刊スポーツ評論家)