米フォーブス誌の今年の世界長者番付で資産10億ドル超えのビリオネアは過去最高の2208人だった。

国別にみると米国が585人。中国本土に香港、マカオ、台湾を加えた中華圏の476人がこれに続いた。今年からビリオネアの仲間入りした259人の内訳を見ると中国は89人で、2位の米国(45人)以下を引き離して断トツである。

28日公開の「クレイジー・リッチ!」は、生まれるべくして生まれた作品と言えるのかもしれない。題材は中国の気が遠くなるような金持ち。主要キャストは全員アジア人という異色のハリウッド映画ながら、米国公開では3週連続興行1位。ある意味歴史的作品といえる。

主人公のレイチェル(コンスタンス・ウー)は若くして大学教授となった中国系ニューヨーカー。恋人のニック(ヘンリー・ゴールディング)はシンガポール出身で、容姿も性格も申し分ない若者だが、家族のことは話したがらない。そんな彼が突然、友人の結婚式で帰郷するついでに彼女を自分の家族に紹介したいと言い出す。

ニックの正体はアジア屈指の不動産王の御曹司だった。レイチェルが招かれたのは想像を絶するセレブの世界。彼女以外は全員が大金持ちだ。2人の交際が面白くない元カノや一族は彼女の周りに周到に「壁」を築く。相思相愛の2人はゴールインできるのか。

言ってみれば典型的なシンデレラ・ストーリーだが、随所のアジアンな味付けが面白い。

マーライオン公園、ラッフルズホテル、そしてマリーナ・ベイ・サンズ…名所をふんだんに使い、けた違いのエキストラを動員して、「美しきアジア」を賑々しくスケール大きく映し出す。

ニューヨーク州立大に学んだウーはレイチェルそのままにあか抜けているし、モデル出身のゴールディングも隙のない格好良さだ。往年のハリウッド映画に登場した細目、チョビひげの中国人とは明らかに違う。

ニックの母にふんするのが米国で活躍中のミシェル・ヨー。気品と怖いほどの貫禄で中国セレブのたくましさを醸し出す。大きな厨房(ちゅうぼう)での料理人とのやりとりは、映画「クイーン」(07年)に登場したウィンザー城での女王とスタッフとのエピソードを思い出させる。

序盤、レイチェルと実母の会話の中に象徴的なくだりがある。家族のことを明かさないニックについて「ものすごく貧乏なのかもしれない」と心配するのだ。すっかり米国人化した親子には、旧来の米国人が抱くアジア人=貧乏のイメージが刷り込まれている。冒頭にはニックの母が若い頃、ロンドンで侮辱を受けるエピソードも織り込まれる。中国の、広くはアジアの欧米に対するプライドとコンプレックスの入り交じった複雑な感情をザワザワと逆立てるくだりだが、不思議と不快な感じはしない。

「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」(16年)などで知られるジョン・M・チュウ監督は時代、世代ギャップをしっかり踏まえながら、文字通りクレイジーなスーパーリッチを際立たせる。中国系社会の格差問題にふたをした能天気さはあるものの、最後のどんでん返しまでしっかり楽しめる娯楽作品だ。

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「クレイジー・リッチ!」の1場面 (C)2018WARNERBROS.ENTERTAINMENTINC.ANDSKGLOBALENTERTAINMENT
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「クレイジー・リッチ!」のポスター
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