「蜘蛛の巣を払う女」(11日公開)は、人気の北欧ミステリー「ミレニアム」シリーズの第4部が原作だ。

振り返ってみれば、そもそもの3部作は08年から翌年にかけて日本で発売された。原作者のスティーグ・ラーソンはその4年前に心臓発作で亡くなっており、当時は第1作にして絶筆作という「限定品」として読み進めた。

2人の主人公、新聞記者のミカエルと天才ハッカーのリスベットのキャラクターが魅力的で、強大な悪との一筋縄ではいかない戦いにぐいぐい引き込まれた。

15年、同じスウェーデンの作家ダヴィド・ラーゲルクランツがシリーズを書きつないだ第4部が発売された時は半信半疑で手に取った。が、リスベットの比重を増したこの作品は掛け値なしに面白かった。病的な犯罪者の娘として生まれた彼女の過去を掘り下げながら、IT犯罪との戦いを国際舞台に広げ、原作者ラーソンを唸らせるような内容だった。

ハリウッドが、第1部「ドラゴン・タトゥーの女」(11年)から、いきなり飛ばしてこの第4部の映画化に踏み切った理由も分かる気がする。前作のデヴィット・フィンチャー監督は製作総指揮にまわり、「ドント・プリーズ」(16年)のフェデ・アルバレス監督がメガホンを取っている。

アルバレス監督は原作以上にリスベットの比重を高め、父親の悪を引き継いだ双子の妹カミラとの対比で、彼女の過去と現在を照らし出す。黒ずくめのリスペットと深紅の衣装に金髪のカミラ。正邪をひっくり返した色使いが、世間の常識の真反対から正義を遂行するリスベットを浮かび上がらせた。

虐待された過去に抗うようにドラゴン・タトゥーを背負い、天才的なハッキング能力と、格闘術で精いっぱいまで鍛えたか細い体で、敵とみなした相手を徹底的につぶす。現代的なかっこよさを体現したヒロインだ。

今作のクレア・フォイはボーイッシュなショートカットが良く似合う。「ドラゴン-」のルーニー・マーラより目が優しく、意外な脆さや優しさというリスベットのもう1つの面をうまく表現している。スウェーデン版のノオミ・ラパスほど生身感は強くなく、原作イメージに一番近い気がする。

冒頭のアクロバティックなアクションからやる気がぐいぐい伝わってくる。首を傾げて相手を見詰める怖いくらいの迫力が、自らのトラウマの象徴でもある妹カミラを前にするとすっと弱まる感じがよく分かる。2月公開の「ファースト・マン」の宇宙飛行士の妻役とは対照的な演技でこの人の懐の深さを実感した。

カミラ役のシルヴィア・フースは「ブレードランナー2049」(17年)のレプリカント役そのままの無機質な感じがいい。ミカエル役は「ボルグ マッケンロー 氷の男と炎の男」(17年)でボルグ役を演じたスヴェリル・グドナソン。すっかり脇役に追いやられてはいるが、「魅力的な中年男性の典型」をしっかり体現している。

原作との違いも少なくなく。読んでから見ても十分に楽しめる作品だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)