片山慎三監督(38)の長編デビュー作「岬の兄妹」(公開中)は脚に障害のある兄と自閉症の妹の物語だ。社会から孤立し、追い詰められた2人は、妹の売春で食いつないでいく。目を覆いたくなるような題材だが、映像には不思議なエネルギーが満ち、地方都市の暗部をあぶり出して心を揺さぶる。片山監督に聞いた。

-デビュー作にこの題材を選んだ理由は。

「『累犯障害者』(06年、山本譲司著)というノンフィクション本の中に、捕まっても捕まっても売春を繰り返す知的障害者の話があったんです。不思議に引き込まれました。それがヒントになりました。今の日本は貧富の差が広がって、貧乏な人はそこから抜け出せない状況がある。肌で感じます。自分のことで言えば、祖母が相当厳しい生活をしていたらしくて、食うや食わずの頃の話をよく聞きました。言葉は変ですがそれが面白いんです」

-「万引き家族」が幸せに見えるような底辺の話で、周囲の人たちの意外な優しさが印象に残りました。

「兄妹の設定以外は撮りながら(ストーリーを)考えていく手法をとりました。最初は(周囲の人物を)もう少し悪くしようと思っていたんですが、実際に演じてもらった役者さんがめちゃくちゃいい人で(笑い)、撮っているうちにいつの間にかそんな温かさが反映されたんですね」

-妹役の和田光沙さん(35=「止められるか、俺たちを」などに出演)が知的障害者に成り切っていました。

「ちょっと不自然な手の動きと視線の定まらない目の動きだけ最初に付けて、あとは演技してもらう中で微調整しました。独特な息の仕方もできていて、本当に頑張ってくれました。和田さんは途中『菊とギロチン』の撮影もあって、そっちでは女相撲取り(の役)をやっていたわけですから」

-兄役の松浦祐也さん(37=「マイ・バック・ページ」「泣き虫しょったんの奇跡」)の個性が作品にぴったりはまっていました。

「最初からお願いして、当て書きに近い形ですから。撮影中にお子さんが生まれたこともあって、妹が妊娠した後の演技とかにも微妙な変化があって、それでストーリーを変えたりしました。兄妹が追い詰められた時、兄が自分のウンチで反撃する笑っちゃうようなシーンがあるんですけど、あれも松浦さんだからできたんだと思います。和田さんもそうですけど、どんどん(役に)入っていく人なので、むしろ抑えていただく感じでしたね」

-おふたりの熱演も含め、デビュー作とは思えない奥行きや広がりを感じさせる作品でした。

「第1作で与えられる条件って普通、撮影10日間とかじゃないですか。それはいやだったんですね。だから製作費は自分で用意しました。16年の2月から17年の3月まで丸1年かけてしっかり四季を撮りました。3~4日撮影しては2、3カ月空けるというペース。撮影自体は計20日間くらいですけど、ぜいたくな撮り方をさせてもらいました。最近は映画の題字も小さめなんですが、昔の『七人の侍』みたいに思いっきり大きくしました(笑い)」

-映像塾(中村幻児監督主催)を卒業した後、韓国のポン・ジュノ監督(『殺人の追憶』など)の助監督からのスタートでしたね。ジュノ監督は今回の作品を「慎三、君はイカレた映画監督だ。娼婦、陰毛、人ぷん…。それでも映画は力強く美しい」と絶賛しています。

「光栄です。ジュノ監督とは知り合いを通じて『TOKYO!』の時に撮影に付いたわけですが、日本に比べて韓国は時間をかけてきちんと撮りますね。ジュノ監督は絵コンテをしっかり描いて構図を決める。(その後付いた)山下敦弘監督は緻密な芝居にこだわりがあります。それぞれに学ぶところがたくさんありました。ポン・ジュノ作品はシーンごとにイメージが変わります。それでいいんだ、と教わった気がします。今回の映画にもホラー映画的なところもあれば、ごりごりのアクションもある。その辺はポン・ジュノ的かもしれません」

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

◆片山慎三(かたやま・しんぞう) 1981年(昭56)2月7日、大阪生まれ。08年、オムニバス映画「TOKYO!」のポン・ジュノ監督パートの助監督を皮切りに「母なる証明」(09年、同監督)「マイ・バック・ページ」(11年、山下敦弘監督)などに付く。BSスカパーの「アカギ」第7話を監督、初の長編作「岬の兄妹」は完成までに2年を費やした。

「岬の兄妹」の1場面 (C)SHINZOKATAYAMA
「岬の兄妹」の1場面 (C)SHINZOKATAYAMA