60年に日本公開された「真夏の夜のジャズ」は58年開催の「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」を撮ったドキュメンタリーだ。ジャズを聴くようになった大学生の頃にはすでに「伝説の作品」になっていて、リバイバル上映で2度ほど見た記憶がある。

故バート・スターン監督の夫人、シャナさんが米国立フィルム保存委員会のサポートの得て制作した4K修復版が21日から公開されることになり、改めて試写を見た。

米東北部に位置するニューポートは19世紀以降に建てられた豪邸が並ぶ港湾都市、そして保養地、別荘地としても知られている。映画が撮影された58年は、毎夏開催が恒例となったジャズ・フェスティバルがまだ5回目を迎えたばかりで、そこかしこに盛り上げようという気合がみなぎっている。

セロニアス・モンク (C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.
セロニアス・モンク (C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.

前半に登場するセロニアス・モンクは脂ののった40歳。スーツからサングラスのフレームまでアフリカ的な色合いで、すでに確立したモンク節でマイペースのピアノ演奏を披露する。カメラが客席に転じると、すっかり同調して体を揺らす中年男性がいれば、ついて行けずに周囲に目をやる若い女性もいる。途中から、カメラは近くで繰り広げられるヨットレースを映し、これがモンクの演奏にぴったりと合って美しい。

アニタ・オデイ (C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.
アニタ・オデイ (C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.

前半のヤマ場はアニタ・オデイだ。ハスキーで独特の断続的な声の出し方にはこれでもかというくらいのスウイング感がある。大きな帽子にドレス姿は、オードリー・ヘプバーンの往年の映画を見ているようにとってもおしゃれで、当時38歳の彼女にとっては文字通りの最盛期を映した貴重な記録と言える。

両側のつり上がったサングラスが目立つ客席も当時の先端ファッションで着飾った人ばかり。古き良きアメリカの高級リゾート感、そして夏フェス感が半端ない。

モンクやオデイの登場は昼間で、映画全体のイメージは原題の「JAZZ on A SUMMER’S DAY」のほうがしっくりくる。が、キャッチーな邦題「真夏の夜のー」の通り、最大の見どころはやはり陽が落ちてからの終盤に登場するルイ・アームストロングだ。

ルイ・アームストロング (C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.
ルイ・アームストロング (C)1960-2019 The Bert Stern Trust All Rights Reserved.

あの独特の歌声、演奏はもちろんだが、あらためてその話術に引き込まれる。ローマ法王も来場した欧州公演の話をユーモアたっぷりに語り、聴衆の欧州文化への憧れやコンプレックスを巧みにくすぐる。彼の一挙手一投足に笑いや歓声が上がり、手だれのエンタメ力を実感させる。

チャック・ベリーやゴスペルのマへリア・ジャクソンの締めまで、ジャズに収まり切らない83分の密度は濃い。

スターン監督はもともとハリウッドセレブのここぞという写真や映画ポスターの決めの1枚を撮った人気写真家。4K映像になってあらためてその美しさも実感できた。【相原斎】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)