1984年の米国はレーガン大統領が2期目の当選を決め、レーガノミクスと呼ばれた自由競争と戦略防衛構想(SDI)による軍事支出が一段と推し進められた。一方で、ジョージ・オーウェルの近未来小説「1984年」に描かれる独裁国家では、歴史の改ざんが行われ、国民の論理的思考が封じられている。

(C)2020WarnerBros.Ent.AllRightsReservedTM&(C)DCComics
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17年に新たにスタートを切った「ワンダーウーマン」の第2作「-1984」(18日公開)の舞台となる84年は現実でもSF小説の世界でも「特異な年」である。前作でナチスの毒ガス兵器を封じたヒロイン・ダイアナが今回立ち向かう敵は、当時の米ソ両超大国の緊張感を反映して一段とスケールアップ。彼女の前には世界崩壊を招く「禁断の力」が立ちはだかる。

幕開けはダイアナが少女時代を過ごしたパラダイス島の回想シーンだ。特殊効果をふんだんに使った美女たちの「超トライアスロン」の迫力はそれだけで見る価値がある。少女ダイアナのDCコミックらしい「屈折」は、作品を通じて繰り返される心理的葛藤の出発点となる。

時は移り、84年のダイアナの表の顔はスミソニアン博物館で働く文化人類学・考古学者。持ち込まれた「謎の石」には禁断の力があり、それが野心的な石油の起業家の手に渡ったことから、騒乱の火の手が中東から上がって…。

身長182・2センチ、体重74・8キログラムという原作の設定がまるでそのまま抜け出たようなガル・ガドットが前作から続投。母国イスラエルの国防軍で戦闘トレーナーをしていただけに、大ぶりなアクションは指先までシャキッとして、キレイで説得力がある。

装甲車の一団との砂漠でのチェイスでは、「真実の投げ縄」を駆使して、スパイダーマン顔負けに立体的に飛び回る。

彼女のパワーを一段とアップさせるゴールドアーマー(よろい)も登場。そのアーマーに真正面からぶつかってくる正体不明の敵チーターとの格闘では、見たことのないアングルもあって、心くすぐられる。

「-1984」の背景に話を戻せば、トランプ大統領当選後の17年にオーウェルの「1984年」がブック・チャートに再登場したことが思い出される。権力者の暴走、デマ、事実の改ざん、そして果てしない人々の欲望…。オーウェルの「予言」が現在に重なり、ゾクッとさせられる。この映画は「1984」と「2020」の類似点を突きつけているのだ。

今作ではダイアナも自身の「欲望」と向き合うことになり究極の2択を迫られる。「モンスター」(03年)でシャーリーズ・セロンを「汚れ役」で再開花させたパティ・ジェンキンス監督は、最強のスーパー・ヒロインにしっかりと人間味を与えている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

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