リドリー・スコット監督が撮った「ブラック・レイン」(89年)の大阪がそうであったように、その地に異国情緒を感じる監督のフィルターを通すと街の見え方が違ってくる。

フランスのドゥニ・デルクール監督の「バニシング 未解決事件」(5月13日公開)で描かれるソウルの夜は、これまでの韓流映画と比べても思いっきり陰影が効いていて、厳選夜景巡りのような美しさがある。

冒頭、ソウル市内で発見された遺体は身元不明の上に指紋が削られている。捜査に行き詰まった刑事は、シンポジウムのために来韓中のフランス人の女性法医学者が指紋再建のオーソリティーであることを知り、協力を求める。韓仏男女の異色コンビはしだいに真相に迫っていくが、背後には大掛かりな臓器売買組織があり、2人の身にも危険が迫って…。

刑事役は「オールド・ボーイ」(04年)でデビュー以来、硬軟問わない役作りを披露してきた演技巧者ユ・ヨンソク、法医学者は「007 慰めの報酬」(09年)のボンドガールで脚光を浴びたオルガ・キュレリンコと、一線級の組み合わせだ。

王道娯楽作品として、命懸けの捜査には恋模様も絡む。刑事と法医学者がしだいに信頼を深め、好意を抱き合う心の動きが、2人の絶妙な息づかいで伝わってくる。

「チェイサー」(08年)や「殺人の追憶」(03年)を参考にしたというデルクール監督は、ソウルの裏側や韓国刑事の独特の振る舞いを彼なりに理解し、違和感を最小限にサスペンスに引き込んでくれる。

組織の末端で遺体の「運び屋」を務める男を「悪魔を見た」(11年)のチェ・ムソンが好演。カギを握る通訳役にフランス語の得意なイェ・ジウォンと周囲の配役にも隙が無い。

キュレリンコが市場で口にしたトッポギの辛さに驚くシーンが、一瞬素が出たように見えて面白かった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)