かつて伝説のスタントマンと言われた男は、ケガをきっかけに一線を引き、撮影所住み込みのエキストラとして暮らしている。唯一の慰めは相棒として寄り添う愛馬チートゥだ。
70歳になったジャッキー・チェンが演じるのは、人情喜劇の主人公のようなルオだ。が、そのチートゥが借金のカタに取り上げられそうなったのをきっかけに、愛馬とともに再びアクションの一線に挑んでいく。
デビュー50周年を記念した「ライド・オン」(31日公開)は、ジャッキーが自らの半生を重ねるように、過去作の実際のシーンを織り込みながら進行する。
借金取り一味との格闘シーンは小道具大道具を絡めながら、相変わらずユーモラスで小気味いい。逆に「70歳の老境」のリアリティーを出すのに苦労している感がある。
チートゥ役の馬が驚くほどの芸達者で、CGかと見まがうばかりに表情も豊か。泣かせどころ笑わせどころでジャッキーとのコンビネーションは芸術レベルだ。
ゆえあって離れて暮らしていた娘に「崖上のスパイ」(21年)の好演が記憶に新しいリウ・ハオツン。この娘と気のいい婚約者(グオ・チーリン)とのほほ笑ましいやりとりも見どころのひとつだ。
家を空けがちだったジャッキーとは縁の薄かった息子のジェイシー・チャンとの関係をほうふつとさせる設定で、プライバシーをあまり語らないこの人にしては珍しく、「私」の部分を投影しているように思った。
自らのスタントを記録したフィルムを娘とともに観るシーンが象徴的だ。ここでは名作「プロジェクトA」(83年)などの実際のシーンや、ケガをして担架で運ばれる記録フィルムも挿入される。
そのスタントのすさまじさ、魂のようなものに改めて胸が熱くなる。このシーンで流すルオの涙にはジャッキーが自らの思いを重ねているように見えた。
ストーリーに縛られず、それぞれのアクションシーンを目いっぱいのところまで魅せてくれる香港的な手法も健在。ブルース・リーのスタントマンとしてスタートした彼らしく、随所にスタントマンへの敬意も感じられた。
メガホンはペットとの愛をつづったオムニバス映画「モフれる愛」(20年)のラリー・ヤン監督。ジャッキーと愛馬チートゥとのやりとりが絶妙なわけだ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




