演歌・歌謡曲の世界で「第7世代」と呼ばれる若手歌手が台頭しています。ニッカンスポーツ・コムでは「われら第7世代!~演歌・歌謡曲のニューパワー~」と題し、音楽担当の笹森文彦記者がそんな歌手たちを紹介していきます。歌唱、三味線、尺八の三刀流で活躍する彩青(りゅうせい=19)の第3回は「猛稽古と尺八作りと美空ひばりさんの名曲」です。

演歌風のポーズを決める彩青(撮影・河野匠)
演歌風のポーズを決める彩青(撮影・河野匠)

彩青の師匠、細川たかし(71)は昨年大みそかのNHK紅白歌合戦に企画枠で出演した。細川は16年に「世代交代」を理由に、通算40回目の出演を前に、紅白卒業を宣言した。以来6年ぶりの出演で、細川らしい明るいステージを披露した。

彩青 細川師匠に言われていることは「彩青は歌手だから、これから(芸能人として)いろんなことに挑戦するけれども、歌手だということを忘れずに、まずは歌を磨いていくこと。それを絶対に忘れてはいけない」です。肝に銘じて頑張りたいと思っています。

新時代となる2019年(令和元)に「銀次郎 旅がらす」でデビューした。同年に日本レコード大賞の新人賞を受賞した。

翌20年5月に第2弾「津軽三味線ひとり旅」を発表し、オリコン週間シングル演歌ランキングで1位を獲得した。同年6月下旬には、NHK連続テレビ小説「エール」に、オーディションを受ける水川ながれ役で出演。得意の三味線を弾きながら「ソーラン節」を歌った。セリフはなかったが、話題となった。活動は当初、順風満帆だったが、新型コロナウイルス感染症が全てを止めた。

キャンペーンや握手会、ミニライブなどが、ことごとく中止となった。焦る彩青に「歌を磨きなさい」と常に語る細川が、手を差し伸べた。東京近郊の稽古場を貸してくれた。そこは、近くに民家がなく、竹が生い茂る静かな場所だった。

彩青 いろんなことが停滞して(練習目的の)カラオケ店も行けなくなって、どうしようと思っている時に、細川師匠が「ここだったら周りを気にしないで、歌を歌える。三味線も弾ける。尺八も吹ける」と場所を貸してくれたんです。仕事はそこから通い、本当にずっと稽古、稽古の期間でした。

三味線を手に笑顔を見せる彩青(撮影・河野匠)
三味線を手に笑顔を見せる彩青(撮影・河野匠)

裁縫が趣味で、手先の器用な彩青には、以前からやってみたいことがあった。尺八作りだ。

彩青 尺八をずっと勉強してきて、作ってみたいなという気持ちがありました。なかなか機会がなかったのですが、稽古場の裏に竹がわ~っとあったんです(笑い)。(コロナ禍で時間もあるし)これは作れるかもしれないと。タケノコを採るわけじゃないので(笑い)、管理の方に「竹をいただいていいですか」とお願いしたら「いいよ」って。

稽古の合間に尺八作りにも精を出した。一般的な長さは一尺八寸(約54センチ)。そこまでは難しいのでもっと短いものを作った。真竹を切り出し、5つ(表4つ、裏1つ)の指孔(ゆびあな)をキリや小刀で空け、棒ヤスリで火をおこすように磨くという。

彩青 僕のはずっと簡略化して作っています。孔(あな)の位置で音が決まってしまうんです。職人さんってこんな大変な思いをしているんだなと、感謝しながら作っています。小さいものばかりですが、8本は作りました。1本作るのに竹の乾燥や孔開けの作業などで約2カ月半ぐらいかかります。本物は10年ぐらい竹を乾燥させるものもあるんです。

今回の取材中、自作の尺八を吹いてくれた。素人にはとても良い音が出ていると感じた。売るつもりはないそうだが、いつか自作の尺八をステージで演奏したいという。ちなみにステージで使う尺八は現在13本持っている。三味線はメインの2棹(さお)を含め5棹あるという。

自らの手で尺八を作る彩青
自らの手で尺八を作る彩青
器用に尺八を作る彩青
器用に尺八を作る彩青

彩青 楽器は管理が大変です。尺八は時期によって竹が割れるんです。また修理代がかかるなって(笑い)。ピアノを弾く方に「1日弾かないと3日分落ちる」と聞いたことがあります。僕は三味線を1週間弾かないと、途中から手がもつれてくるんです。日ごろの練習がこんなに大事なんだと、稽古場にこもってあらためて思いました。

今年8月に20歳になる。16歳でデビューし、コロナ禍はあったが、いろいろな経験を積んだ。最近は周囲から、口調が細川師匠そっくりになってきたとよく言われる。

彩青 いよいよ20歳になってしまうと思うと、自分でも恐ろしい(笑い)。それを機にというわけではありませんが、違う楽器にも挑戦してみたいと思っています。三味線の形をしていますがコンパクトな二胡(にこ)を一番やってみたいと思います。

歌唱、尺八、三味線、そして二胡と四刀流になる可能性も出てきた。

自作の尺八の音色を披露する彩青(撮影・河野匠)
自作の尺八の音色を披露する彩青(撮影・河野匠)

彩青 「第7世代」と言っていただいていますが、ライバルであり、よき仲間です。若い僕らの力が結集しないと、演歌や歌謡曲は見向きもされなくなると僕は思っています。第7世代も歌っているだけではいけない。他のいろんなことに挑戦して、頑張っていかなければと思っています。

彩青にとって人生訓とも言える曲がある。「勝つと思うな 思えば負けよ」。美空ひばりさんの名曲「柔」である。

彩青 小学校から民謡のいろんな大会に出させていただきました。小学4年ごろから、成績が伸びない停滞期があったんです。何でだろうって、子供心にも悩みました。その頃「彩青君、また優勝するんでしょう」みたいな感じで常に言われていました。「優勝しなきゃ、優勝しなきゃ」と気負っていた。そんな時に「柔」を聴いたんです。「今の俺だ」と思いました。歌詞の通り、自分を貫いて、周りに左右されず、自分の歌を歌えばいいと思えました。また少しずつ成績も伸びていきました。自分にとって教訓です。「負けて、もともとだよ」って。自分の心に今も残っています。

細川師匠の教えと「柔」のメッセージを胸に刻み、これからも歌を磨いていくだろう。(おわり)

三味線を演奏しながら歌唱する彩青
三味線を演奏しながら歌唱する彩青

◆彩青(りゅうせい) 本名・横田彩青。2002年(平14)8月29日、北海道生まれ。誕生年に開催されたサッカーW杯で日本中を彩った日本代表ユニホームのサムライブルーから「彩」と「青」で命名。民謡は正調江差追分北優会で、三味線は三味線研究会夢紘座で学ぶ。日本郷土民謡民舞協会の第53回青少年みんよう大会で小学生日本一。民謡民舞少年少女全国大会で中学生日本一など大小50以上の大会で優勝。21年2月にコロナ禍であまり歌えなかった第2弾の新曲を「津軽三味線ひとり旅『青春十八番』盤」として再発売。趣味は民謡、演歌の古いレコード収集と裁縫、尺八作り。両親と祖母の4人家族。身長167センチ。血液型A。


次回はシンガー・ソングライターのおかゆさんです。


◆プレゼント 彩青さんの手作りマスクを1人に。ご希望の方は必要事項を記入の上、ご応募ください。発表は発送をもって代えさせていただきます。締め切りは1月14日です。

「プレゼントの応募フォーム」はこちら>>https://quiz.nikkansports.com/answer/pc/273