「嵐」の活動休止のニュースに激震が走る今日、同じメンバーで20年グループを続けること自体がすごいことだと改めて思います。今やアイドルグループは、卒業と加入を繰り返すのが主流になりました。

特に女性アイドルは、いつか必ず卒業するものになってしまいました。タイミングがいつかという違いはありますが。私の大好きだった女性アイドルグループ「℃-ute(キュート)」も「チャオ ベッラ チンクエッティ」も解散してしまいました。(もちろん卒業後ソロで活動している皆さんを引き続き応援していますが)今回はトークスキルだけでは解決できない、システムの問題を考えます。トーク編第42回、「女性アイドルの仕組みを考える」。


 ■気軽になったアイドル事業■


アイドルの卒業制度が主流になったのは悪いことばかりでなく、芸能活動を気軽に始められるようになったので、多くの女の子がアイドルになる夢を叶えられるようになりました。今や女性アイドルグループは全国に3千組あると言われ、それぞれに10人メンバーがいるとすれば、全国で3万人がアイドルを名乗る時代になったということです。

それは、運営(注1)もそうで、さほど人員がそろっていなくてもアイドル事業を始められるようになり、また、かつてよりも簡単にアイドル事業を“たためる”ようになりまた。昨今話題なのは「NGT48」の運営(注2)ですが、運営に問題があるのはNGTだけではありません。


 ■タレントの生徒で起きたトラブル■


私はタレントにMCを教えるトークレッスンを行っています。もうずいぶん前のことになりますが、かつて、とあるダンスユニット(グループAとします)で、だいぶスキルがアップしたと感じていたところで、レッスン中に泣き出してしまう子がいました。精神が不安定になってしまい、トークレッスンどころではなくなってしまいました。(事例の生徒さんは、私がレッスンをしていると公表しているグループではありません)

よくよく話を聞くと、全く別のグループ(グループBとします)からライバル視をされている様子でした。グループBのメンバーが、ファンと直接話す特典会(注3)の際、自分のファンにこっそりグループAの陰口を言っているとのこと。ファンが推し(注4)の言うことを信じる気持ちはわからなくもないですが、そのファンは、インターネットにグループAの悪口を書き込むようになり、生徒さんはそれを見つけてしまったとのことでした。

私はグループBの子を責めるつもりは毛頭ありません。10代の若い女の子です。ライバル心にかき立てられ、一度は行動を間違えることもあるでしょう。問題はその後。

グループAの運営が、真剣に相談に乗ってくれませんでした。


 ■解決の難しさと、解散の選択■


私は、自分が間に入ることで状況が変わるかもしれないと思い、関わりを深めることに怖さもありましたが、何より生徒たちを守りたかったので、意を決して、自分も加わって話し合いをすることを提案しました。

しかし、私の提案は失敗でした。一度、話し合いの場を持つことはできましたが、状況は変わらないまま、運営の方と連絡がつかなくなり、トークレッスンもなくなってしまいました。

その後間もなくしてグループは解散。みんな卒業しました。もうずいぶん昔の話です。この話はNGT48とは何の関係もありません。私が言いたいのは、現在のアイドルのシステムのことです。


 ■労働組合も相談先もない■


特典会という名のもとに、メンバーとファンは直接話せる時代になりました。それはアイドルが活動費を稼ぐ上で画期的なことで、このCDが売れない時代に、レーベルを支える事業でもあります。ファンは応援の気持ちを強めることができるし、何より会って話せるのは嬉しいこと。しかし、特典会には危険が伴うことを前提に運営しなければなりません。

アイドルは芸能人。会社員と違って、労務管理も労働組合もありません。この働き方改革の時代に、「他の子は我慢してるんだよ」あるいは「いやなら他のメンバーに頼むよ」なんて言われることもあります。立場が弱いのです。そのうえ多くが10代〜20代前半。判断するのも意見するのも難しいでしょう。

もちろん芸能活動は、がんばり時には無理をすることもあります。風邪気味でもステージに立ったり、学校行事を休むこともあるでしょう。運営がしっかりしていて、充実したアイドル活動をしている子ももちろんいます。

しかし、立場が弱いアイドルも多く存在し、相談先がないのは問題ではないでしょうか。


 ■国も自治体も目を向けてほしい■


もう少し、法律や条例で、芸能に関わる規制があってもいいのではないかと思うのです。これまで国も地方自治体も放置をしてきた感があります。しかし、10代のアイドル活動は、部活と似たような側面があるので、スポーツ庁は運動部だけでなく、芸能にも目を向けてほしいと考えています。


たとえば、小学生の特典会についてです。小学生が接待飲食店で働いていたら大問題ですが、アイドル活動の一環となれば、握手やチェキ撮影、一緒にゲームをすることも可能になってしまいます。何歳からどんな特典会を行うかは、各社の自主規制に委ねられているのが現状。このままで、女性アイドルの人生は守れるのでしょうか。甚だ疑問です。


 ■アイドル同士が一丸となる方法も■


女性アイドルの組合や協会があってもいいと思います。日刊スポーツ1月22日の紙面で「日本水商売協会」の設立が記事になっていました。良い店か悪い店かもわからない情報の少なさを問題視し、優良店舗にスポットを当てていくのだそうです。これは参考になるのではないでしょうか。

「運営の責任」と一括りにするのは簡単なことですが、問題はもっと複雑で根深い。『第1回AKB48選抜総選挙』から今年で10年です。アイドル業界もファンも政治も、AKBグループがもたらしてくれた恩恵に甘えるだけでなく、現在のアイドルの仕組みを見直すタイミングが来ているのではないかと、思わざるを得ません。【五戸美樹】(日刊スポーツ・コム芸能コラム「第66回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)


注1)「運営」・・・アイドルのマネージャーやプロデューサー、ライブの現場社員を含めて言う、スタッフの総称。

注2)昨年12月に起きたNGT48山口真帆さん(23)への暴行事件に関して、対応が遅れたことなどが問題視されている。

注3)「特典会」・・・CD購入の特典として行われる、握手会やチェキ会のこと。近年はCDに限らず、グッズやライブチケットにも特典がつくことが多々あり、特典内容も多様化している。

注4)「推し」・・・推しているメンバーの略。応援しているグループの中でも特に熱心に応援しているメンバーのこと。