松本幸四郎(75)主演の舞台「アマデウス」が東京・池袋のサンシャイン劇場で上演されている。81年に市川染五郎から9代目幸四郎を襲名し、翌82年に「アマデウス」に主演した。19世紀のウィーンを舞台に、凡庸な宮廷作曲家サリエーリと、奔放な天才作曲家モーツァルトの確執を描いたピーター・シェーファーの名作で、初演では幸四郎のサリエーリに、モーツァルトは江守徹だった。

 以来、上演を重ね、上演回数は440回を超えている。幸四郎は歌舞伎では「勧進帳」が1000回を超え、ミュージカルでは「ラ・マンチャの男」が1200回以上と、ライフワークともいえる代表作を持つが、現代演劇では「アマデウス」がある。これまで10回近く見ているが、いつも驚かされるのは、冒頭、モーツァルト毒殺の疑いがうわさとなって駆け巡る中、老いたサリエーリが過去に遡る場面で、ぼろぼろの服を脱ぎ捨てると、若々しい姿に鮮やかに変身するところだ。初演では40歳だったから、若々しさは当然で、苦労もなかっただろうが、年齢を重ねても、その若々しさはあせることがない。

 来年1月の東京・歌舞伎座で幸四郎が2代目松本白鸚、長男市川染五郎が10代目幸四郎を襲名するため、今回が幸四郎として最後の「アマデウス」となる。そして、モーツァルト役は江守から染五郎、武田真治と引き継がれてきたが、今回はジャニーズWESTの桐山照史(28)が起用された。幸四郎サリエーリと拮抗する大役だが、桐山は大健闘だった。

 大相撲では言えば、大横綱に新入幕の若手がぶつかるようなものだが、桐山は物おじせず、モーツァルトを演じていた。4年前、桐山は滝沢秀明の主演ドラマ「真夜中のパン屋さん」に出演した時に、年に似合わず、達者な演技をする子だなという印象を持っていた。15年には朝ドラ「あさが来た」に出演していた。

 制作発表の会見で幸四郎に「白鸚の『アマデウス』を期待していいですか」と聞いたら、「気が早い質問ですね。でも、そう言っていただくのは役者冥利(みょうり)に尽きます」と満更でもなかった。桐山、そしてコンスタンツェ役の大和田美帆(34)ら若手を相手に、2時間半の上演時間でほぼ出づっぱりで演じる姿を見る限り、まだまだできるでしょ、と思った。白鸚の「アマデウス」は大いに期待できそうだ。【林尚之】