女優八千草薫さんが亡くなった。88歳だった。昨年も8、9月に舞台「黄昏」に主演し、がん公表した今年2月以降にも、テレビ朝日系ドラマ「やすらぎの刻(とき)~道」の収録に参加した。

今年春から入退院を繰り返していたが、八千草さんのもとには映画出演の依頼が2本あったという。1本は断ったが、もう1つは旧知の監督からのオファーで、病床で台本を読んでいたという。しかし、八千草さんが亡くなり、映画がどうなるかは未定。最後の出演作「やすらぎの刻(とき)~道」の脚本を書いた倉本聡さんは「八千草さんは演技力を含めて、NO・1の俳優だった。もういないと思うと、脚本を書く気がしなくなりますね」と吐露しているが、映画を企画した監督も、八千草さんの出演を想定していただけに、映画が制作されるかは微妙のようです。

1957年に谷口千吉監督と結婚し、以来、監督が07年に91歳で亡くなるまで50年間連れ添った。子供がなかったこともあって、犬や猫を愛した。晩年に飼っていたのは、シェットランド・シープドッグのヴェルディ(オス)と、三毛猫のフィオリ(メス)。ヴェルディは8年前から飼い始め、その散歩にはいつも付き添っていた。ただ、最近はリードはドッグトレーナーが持ち、八千草さんはその後ろからついて歩いていたという。

フィオリは7年前、近所の公園に捨てられていた野良の子猫を拾い、「かわいそうだから」と自宅に連れ帰り、避妊手術したら手放すつもりだったが、愛情がわいて飼うことになったという。イタリア語でヴェルディは緑、フィオリは花を意味する。帰宅する八千草さんをいつも玄関で迎えていたそうで、「とても幸せな気持ちになるの」と話していた。

10月2日に入院したが、主人がいなくて、寂しがっているヴェルディらに会うため、3日ほど自宅に戻ったほど、彼らを愛していた。亡くなったことで、気になるのは彼らのその後だけれど、フィオリは近所の家にもらわれることが決まり、ヴェルディも、飼い主候補が数人いて、近く決まるという。八千草さんは話の中で「あの子」という言葉をよく使っていたけれど、あの子はヴェルディとフィオリのこと。天国の八千草さんも、あの子たちの安住の場がほぼ決まったことに安心しているだろう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)