先日、ヤフーニュースで明石家さんま(67)がある舞台を鑑賞したことを目にしました。

自身のラジオ番組で語ったことをもとにした記事でしたが、見た舞台は「カスパー」。東京公演はすでに終わり、大阪公演が9日に行われます。ノーベル賞作家ペーター・ハントケの戯曲で、生まれてから16年間、地下に監禁されて、言葉を知らずに育った孤児カスパーを主人公にした作品です。

カスパーを演じたのは寛一郎(26)。昨年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で叔父の将軍実朝を暗殺した公暁を演じました。祖父は三国連太郎さん、父は佐藤浩市という俳優一家に生まれましたが、長いキャリアがあった三国さんが舞台に出たのは「ドレッサー」の1回だけで、佐藤は舞台の経験はありません。寛一郎は脚本にほれ込み、「最初で最後の舞台と決めている」という意気込みで挑んだ舞台でした。

最近は分かりやすい舞台が人気ですが、「カスパー」はそういうカテゴリーに入らない難物です。1つの文章しか知らなかったカスパーが、謎の男たちによってさまざまな言葉や社会のルールを拷問のような形で教え込まれていく。カスパーは言葉を知り、知性を得るものの、徐々に疲弊してしまう。彼は何を手にして、何を失ったのか。カスパーを通して人間という存在、社会の在り方を問う舞台でした。

そんな舞台を見たさんまはラジオ番組で「ある時は三国連太郎さんに似ていて、ある時は佐藤浩市君にそっくりで。また自分も持っていて。DNAってすごいな。本当にすごすぎて鳥肌が立った」と絶賛したそうです。

終演後には寛一郎に会って「すごい舞台」とほめたところ、「自信ないんす」と返されたという。確かに、それは本音でしょう。一筋縄ではいかない舞台に初舞台で挑んで、毎日が試行錯誤の連続だろうと思います。そんな中で、さんまの「すごい舞台」という言葉は大きな活力になったに違いありません。

「最初で最後の舞台と決めている」との思いを撤回する日も近いかもしれません。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)