大泉洋が自身を当て書きした小説の映画化作品に主演したことが話題になっていること以上に、面白い映画だ。大手出版社で創業家の社長の急逝を機に発生した権力争いと、出版不況で各雑誌に迫る廃刊の危機…時代のうねりに編集者から作家まで巻き込まれていく。大泉演じるカルチャー誌編集長は、社内外の人々を手玉に取る、どこか裏があるつかみにくい男だ。松岡茉優演じる、男に翻弄(ほんろう)されつつも、ガムシャラに突っ走る若手編集者が観客目線に近い存在として物語を引っ張る。2人を軸に、多彩な俳優陣がパズルのピースのようにはまっていく緻密さは出色だ。

終盤には、紙からウェブへの転換を余儀なくされる出版業界の現状も織り込まれ、エンタメ映画ながら旧態依然とした組織が転換しにくい今の日本を風刺しているようにも映る。それはコロナ禍で緊急事態宣言が発出された同4月に延期が決まってから、約1年後の公開となったことと無関係ではないだろう。佐野史郎が「映画は時代の鏡。この作品も20年が舞台だけど、今見るから余計にこういうことなんだと(感じる)」と語るように、1本の映画や音楽が、発表された時代の空気をまとい、新たな意味を持つ場合がある。今作もそうした1本になった。【村上幸将】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)