劇薬だ。しかしその衝撃に耐えられれば、こうあるべきだという「常識」の不確かさに気づかされ、心が揺さぶられる。「女王陛下のお気に入り」の鬼才ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再タッグを組んだ異聞奇譚(きたん)。ストーンの渾身(こんしん)の体当たり演技は、アカデミー賞の主演女優賞の有力候補だ。

身体は大人なのに、脳は新生児-。主人公ベラ(ストーン)は、自ら命を絶ったものの、風変わりな天才外科医ゴッドウィン(ウィレム・デフォー)の手によって奇跡的に蘇生する。実は身ごもっていた胎児の脳を移植され、まっさらな状態。好色な弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)の誘いで欧州横断の旅に出る。世間の常識も、マナーも持ち合わせていないベラは、さまざまな人や物に出会い、自らを解放していく。

文句なしの「R18+指定」だけあって、性の描写は激しい。フルヌードを披露するストーンの演技に曇りはない。すごみすら感じた。赤塚不二夫さん原作の漫画「天才バカボン」をほうふつさせる「動物」も出てくる。最後は思わず「これでいいのだ!」と叫びたくなった。【松浦隆司】

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