撮影は21年秋、ウクライナ侵攻が本格化する前のロシア西部辺境が舞台だ。

10代半ばの無愛想な娘と寡黙な父親は、古びたキャンピングカーで旅をしながら映画の野外上映で日銭を稼いでいる。

車内に保管された骨つぼが母親の死を暗示し、ポッカリ空いた2人の隙間を、違法コピーの上映会とDVD販売の共同作業が埋めている。そっけない会話の端々に父娘の情がのぞく。ドキュメンタリー作品で高評価を得ているイリヤ・ボヴァロツキ-監督は、さりげない日常描写がうまい。

ネットの普及が遅れた辺境の村落が彼らの活動の場で、そこで暮らす人々の笑顔や反響が映画の力を改めて実感させる。一方で、娘はこの商売に先がないことも認識しており、撮影時17歳の新人マリア・ルキャノヴァがそのやさぐれ感を巧みに醸し出している。

南から北へ5000キロの旅が映す風景や民族の変化だけで一見の価値があり、ロシア本来の多面性を実感させられる。しだいに険しくなる風土が娘の成長に重なるようで、ルキャノヴァは初潮から初体験まで当たり前のように演じる。最後の叫びはロシアの息詰まる現状に向けられたものか。【相原斎】

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