誠実に、まっすぐ挑戦し続ける俳優がいる。劇団EXILE町田啓太(31)。来月8日公開の映画「チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」(風間太樹監督)など、話題作にも数多く出演。今年で役者活動10年の節目も迎えるが、道程はまだ先につながっている。【大友陽平】

★続々と話題作出演

穏やかな人だ。インタビューで話を聞いていても、落ち着いた口調で、丁寧に一言一言を紡いでいく。話題作への出演も続くなど、着実にステップアップしている中でも、地に足がついている。

20年10月期にテレビ東京系でドラマ版が放送された“チェリまほ”は、赤楚衛二(28)演じる安達と、町田演じる黒沢のピュアな恋物語がSNSを中心に話題となり、さらに200以上の国や地域でも見られるなど世界に広がり、映画化にもつながった。

「SNSでは、いろいろな言語の感想も目にしました。深夜にひっそりと見てくれる方の記憶に残ってもらえればと話しながら、熱量や愛情を込めて丁寧に作ってきたので、作品づくりで大切なことを学ばせていただきました」

“チェリまほブーム”の後も、NHK大河ドラマ「青天を衝け」で土方歳三役を演じれば、現在テレビ東京系で放送中のドラマ「ダメな男じゃダメですか?」(水曜深夜1時)は、町田を主人公にした作品を漫画化し、さらにドラマ化するというプロジェクト。企画段階から携わり、スタッフと一緒になって取り組んできた。

「今まで見えなかったことがたくさん見えました。俯瞰(ふかん)で見なければいけないですし、いろんな人の感性や思いが集まってやっと1つの作品になるので、“ドラマって総合芸術”だなと。より深く関われたことは、僕の中では今後の糧になると思います」

さらに役柄は宮崎美子(63)演じる祖母と、ひょんなことから入れ替わってしまうという大学生役を、コミカルに演じている。

「自分にその年数を生きた経験値はもちろんないので、挑戦だなと思いました。宮崎さんが演じられる役なので、力強さもありながら、かわいらしさがより際立つようにしました」

★航空高校でダンス

次々と舞い込む仕事。多忙な日々も、1歩1歩を丁寧に歩んでいる。ただそこには、必ず挑戦がある。その姿勢は幼少期から。小~中学時代、地元群馬で剣道や野球などに打ち込んでいた町田少年は、突然、石川の航空高校に進学する。

「進路を決めようというタイミングで、たまたまパンフレットがあって、すごくおもしろそうだなと。突拍子もなく、興味心だけです(笑い)。でも、地元の友達に久しぶりに会った時に当時驚いたか聞いたら『いや、やっぱりそうだよなって思ったよ』って…。周りからもそういう風に見えてたんだって(笑い)」

高校時代にダンスを始め、大学で上京。ダンスをきっかけに、芸能界に足を踏み入れることになるが、待ち受けていたのは挫折だった。10年12月に出演した初舞台で、左アキレス腱(けん)を断裂する重傷を負った。ダンスを続けることを断念し、俳優一本の道を歩むことになった。

「それまでやってきたことは、ある程度できていた部分があったんです。でも俳優業に関しては、入り口がものすごく悔しかったので…。ダンスの熱量を、とにかく俳優業に持っていくしかないなと思いました」

つまずいて始まった役者人生…。それでも、人や作品と出会い、刺激を受けながらまっすぐ前を向いてきた。振り返ればその道程は、10年の時を刻んでいた。

「地道というか、時に腐りかけながら、砂利道を歩いてきたような感じだったと思います。でもその中で、やる意義を見いだしたり、だんだんと意識も変わって、自分自身にすごく合っていると思えるようになりました」

その道を陰で支えてくれている家族にも、感謝の思いが尽きない。

「いきなり地元を離れ航空高校に行ってみたり、体も硬いのにダンスを始めて東京に出てみたり…。よく親が許してくれたと思います(苦笑い)。自分の視野や世界観を広げてみたいという思いがあったんだと思うんですけど、今の仕事につながっています。ちょっと放置しながら、見守ってくれた両親には、本当に感謝してます」

経験を重ねながら、さらなる高みを目指していく。

「年齢によって役柄も変わってきています。その時の自分だからこそ任せてもらえたり、今の時代だからこそチャレンジできる作品と巡り合いたいなと思いますし、自分発信でも向き合っていけるようになれたら理想です」

★「なりたい」水谷豊

これまで具体的に「なりたい大人像」は持ち合わせていなかったというが、最近出会ったという。映画「太陽とボレロ」(6月公開予定)で監督などを務めた水谷豊(69)だ。

「本当に心から物作りがお好きな方。水谷さんだからこそ一緒に作ろうって集まってくるような、すてきなスタッフさんたちばかりで、すごく感動してしまって…。お人柄も本当にすてきですし、僕も人間的に、そういう風に成長していけたらいいなと思って、すごく尊敬しています」

31歳。これからさらに脂が乗り、渋みも増して、すごみすら出てきた時、一体どんな役者になっているのか…。きっとそうなった時も「いえいえ、そんなことないですよ」と謙遜する町田の姿が浮かぶ。

▼同じ所属事務所で大学の同級生のEXILE関口メンディー(31)

啓太はとにかくまじめで、周りへの気遣いを忘れないですし、自分の中での“スジ”みたいなものをとても大事にする人です。良くいえば芯がある、言い方を変えると頑固と言えるかもしれません(笑い)。学生時代から、僕が彼の自宅に週6で入り浸り、真冬に給湯器を壊した時以外、怒っているところを見たことがないくらい、仏のように優しいです。ただ内なる炎は常に燃えているタイプで、正真正銘の負けず嫌いだと思います。たまたま大学で知り合い、仲良くなった同級生が、同じエンターテインメントの道を志し、同じ事務所にいる…。決して多くはない関係性だと思います。この奇跡のような人生をお互い楽しみながら、どんな形であれ、一緒に作品を世に生み出してみたい…。これは僕の1つの夢です。

◆町田啓太(まちだ・けいた)

1990年(平2)7月4日、群馬県生まれ。10年に劇団EXILEオーディションに合格し、12年から俳優業に専念。NHK連続テレビ小説「花子とアン」やNHK大河ドラマ「西郷どん」「青天を衝け」、TBS系「中学聖日記」、フジテレビ系「SUPER RICH」、映画も「きみの瞳が問いかけている」、6月公開予定の「太陽とボレロ」など出演多数。19年に写真集「BASIC」発売。特技はダンス、剣道、野球など。181センチ。血液型O。

◆「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」

原作は豊田悠氏による180万部突破の人気コミック。“触れた人の心が読める魔法”を手に入れたサラリーマンと同僚の恋物語で、20年10月期にテレビ東京系で初ドラマ化。ドラマから地続きの映画版は4月8日公開。風間太樹監督。

※2022年3月20日本紙掲載