音楽シーンの先頭を突っ走っている。「小説を音楽にするユニット」YOASOBI。コンポーザーのAyase(28)、ボーカルのikura(21)で、2019年に結成。デビュー曲「夜に駆ける」は、史上初めてストリーミング総再生数8億回を突破した。ユニットのテーマは“遊び心”。その先にある目標は「月でのライブ」だ。【佐藤勝亮】

★直木賞作家コラボ

「群青」「怪物」「三原色」-。立て続けにヒット曲を連発している「小説を音楽にするユニット」と、直木賞作家4人の“豪華コラボプロジェクト”が進行中だ。2月に第1弾楽曲「ミスター」を配信。5月30日には、森絵都氏の小説「ヒカリノタネ」を原作とした、第2弾楽曲「好きだ」をリリースした。

Ayase YOASOBIが走りだした時から、いつかすごい名のある作家さんとご一緒することも、プロジェクトの1つとして面白いかもという構想がずっとありました。でもいざ実現してみると、みなさんすごい方々で、元になる原作の強度が高い分「僕らが頑張らないとな」という思いですね。でも、シンプルにワクワクするなっていうのが一番強かったです。

ikura 小学生のころからずっと大好きで読んでいた作家の方々だったので、本当に夢が1つかなったという感じでした。

楽曲製作はAyaseが担当。1曲製作するのに、小説を合計で100回分ほど読み込むという。出来上がった楽曲を、ikuraが歌声で届ける。結成は、19年10月1日。現在の立ち位置をどのように考えているのか。

ikura 最初の1年は「何が起きているんだろう。食らいついていかなきゃ」って思いながら、必死に走っている感じでした。でも時間が経過した今は、自分たちの状況がしっかり理解できて。そしてこれから、YOASOBIがどういう歩みをしていかないといけないか、という部分もちょっと考えるようになりましたね。

★下積みあればこそ

昨年12月には、東京・日本武道館で初の有観客ライブを開催した。

Ayase 正直、結成時に有観客ライブを開催するまでの想像はしていませんでした。やりたくなかったわけではなく、単純に「なるようになる」で始まったユニットだったので。実際にたくさんの人の前でライブができるようになったというのは、ご時世的なことも相まって、すごい感慨深いところはありました。

ikura ずっと夢だった武道館にYOASOBIとして立つのを、本当に想像していませんでした。だから、いまだに幻のような感じもあります(笑い)。デビューしてからファンの皆さんとずっと会えずにいたので、初めましてができたというのが一番の思い出です。

いきなり世の中に大旋風を起こしたイメージもあるが、それぞれの“下積み”があって、今がある。Ayaseは約9年のバンド活動、ikuraは、中学生のころから路上ライブを行ってきた。

ikura たぶんYOASOBIを始める時、それが本当に2人の音楽人生1年目だったら、絶対にこういう風になっていないと日々思います。それぞれの経験がずっとあった上で、今こうやって活動ができて、こういうことが起きているというのをすごく実感しています。今もそうかもしれませんが、下積みの経験がすごい大きいと思います。

Ayase どこまでを下積みと区切るか分かりませんが、YOASOBIも結局、自分の音楽人生の中で「YOASOBIをやっている」というフェーズでしかないので、これもまた1つの下積みだなっていう感覚ですね。でも本当に、努力が実って良かったなっていう感じですね。

結成後、一番うれしかったことについて、ikuraは「(20年の)紅白初出場」。Ayaseは頭を悩ませながら、こう続けた。

Ayase 難しいですね…もちろん、いろんなことがうれしかったです。でも一番マジでうれしかったのは、シンプルにご飯が食べられるようになった時ですね。音楽のみで生計が立てられるようになるのは、1つの夢でした。でも、そんな生活とはかけ離れた生活をしていたので、想像ができていなくて。給料って数字に出るじゃないですか。あれはちょっと、震えましたね。めちゃめちゃうれしかったです。

★海外ライブの次に

ユニットのテーマは“遊び心”。これまで新記録を数々打ち立ててきた2人が考える、新たにチャレンジしたいこととは。

ikura 初めましてをできたのが去年の12月なので、チームとしてもまだまだやりたいことがたくさんあります。とにかくみんなに会いに行きたいですし、その時に「YOASOBIのステージすごいなー」って思ってもらいたいです。昨年は、オフィスや工事現場などで無観客配信ライブもやらせていただきました。なので、そういう意味でのワクワクも見せていけたらと思います。

Ayase ギミック的な新しいことは、すごいこまごまあります。でもやっぱり大きいことでは、どこでライブをするのか、どういったライブを展開するのかとかを最近割と考えます。そういう意味では、海外でライブをしてみたいですね。

ikura 宇宙や月でやるとかも言ってたよね。まったく何の計画もないですけどね(笑い)。

Ayase いつかね(笑い)。地球上でやり続けていたらそれはね、やる場所がなくなっちゃいますもんね。まあ10年後、20年後くらいに。どうやって音出すんだろう(笑い)。

その先に描く、アーティスト像は-。

Ayase より最近強く思うのは、本当にユルくやっていきたいです。それは別に活動を休み休みやりたいとかではなく、気持ちとして。やっぱりYOASOBIなので「遊びを本気でやっているんです。それを良いと思ったら一緒に遊びましょう」という感覚で、ずっと変わらずにやり続けられれば一番いいなって思いますね。これを強く使命、仕事って思っちゃうと、それこそやる意味がなくなってくるというか。そんな無理してやるんだったら、それぞれソロでやればいいじゃんという話にもなってくるので。「楽しいな」って思いながらやれることが大事だと思います。

ikura まったく違うことをやっていた2人が一緒になったからこそできる楽しいことだったり、挑戦をしていきたいです。あとは、YOASOBIをやる上で「もっともっと、Jポップを追求していきたい」とすごく思います。とにかく始めた時の無邪気な気持ち、遊び心っていうのを、ずっと忘れたくないです。

YOASOBIが中心となり、これからどんどん、遊びの世界が広がっていきそうだ。

▼放送作家の鈴木おさむ氏(50)

Ayase君は物語を曲で表現するということに使命感を持っていて、それを今度はikuraちゃんが天才的な表現力で歌で伝える…。彼らが作った曲には心臓があるというか。絶大な信頼をお互い持っているのに、話してる時は、お兄ちゃんと妹感があるんですよね。お互いがお互いを「天才」だと思っているつながりが格好いい。いつか映画の曲全編が、YOASOBIの曲という映画を見てみたい。全部新曲。映画の物語ごとに曲があって。10曲くらい。2人にしかできない新たな音楽のエンタメがあるので、期待します!! あと、昔の名作・文学作品に曲を作るとかやってほしい。文学作品に苦手意識を持つ学生が読むきっかけになったり。YOASOBIなら、できるんです。

◆YOASOBI(ヨアソビ)

1994年(平6)4月4日、山口県生まれのAyaseと、2000年(平12)9月25日、東京都生まれのikuraによる「小説を音楽にするユニット」。19年10月1日に結成し、同12月15日にデビュー曲「夜に駆ける」を配信。翌20年「NHK紅白歌合戦」初出場。22年のビルボードジャパン「アーティストランキング」では、上半期1位に輝いた。

◆直木賞作家4人とのコラボプロジェクト

22年2月に始動した、直木賞作家の島本理生氏、辻村深月氏、宮部みゆき氏、森絵都氏とのコラボ企画。4人が「はじめて〇〇したときに読む物語」をテーマにそれぞれ小説を執筆。それらを原作に、楽曲を製作するもの。