花組トップ明日海(あすみ)りおが、古代ロマン「邪馬台国の風」で久々の正統派ヒーローに臨む。両親を敵対国に殺された邪馬台国の兵士役。3人目の相手役に迎えた新トップ娘役・仙名彩世(せんな・あやせ)演じるヒロインを命懸けで守る。レビュー「Santé!!」ではワインをテーマにスタイリッシュなショーで魅了する。兵庫・宝塚大劇場は6月2日~7月10日、東京宝塚劇場は7月28日~8月27日。

 前回本拠地作では、宝塚の主人公としては異例の奴隷役。今回も舞台は弥生時代と、宝塚では異色だが役柄は王道ヒーローだ。

 「とても心の中が温かく、強さもあり、まさにヒーロー。最近はダークな部分がある役が多くて、こういう正統派は久々です」

 端正な顔を崩して笑う。演じるのは、古代日本の邪馬台国の兵士タケヒコ。幼い頃に両親を亡くし、生きる術として武術を身につけ、人を殺すことのない棒術を習得する。しかし、愛する女性を守るため、剣を持ち戦う展開だ。

 「立ち回りが随所に、テンポ良く入ってきます。みんなで息を合わせ、かみ合わせていく過程を今、楽しみながらお稽古しています」

 14年5月のトップ就任から丸3年。宝塚の顔の1人として重みは増すばかり。それでも元来の柔和な空気は変わらない。タケヒコと同じく柔と剛をあわせもつトップスターだ。

 「いやいや! 私は(タケヒコのように)流されず、生きている人はすごいと思ってしまうし、自分の命を捨ててでも彼女を救おうと戦い、強くて頭もいい。ほど遠いですよ(笑い)」

 普段は穏やか。舞台に立つと一変する。優しさの中に秘めた強さは、明日海にも子供の頃からあった。

 「ちっちゃい頃は台風がきたり、雷が鳴ると、庭に放し飼いしていた猫を抱きしめて連れていき、縁側に一緒にいましたね」

 命を懸けて守った思い出に子供時代の猫と答えた。

 「お稽古をしていると自分で運命を切り開く、腹をくくるとか、そんなキーワードが出てくる。経験を呼び起こして、つなげて頑張りたい。今、守りたいものはやっぱり、組のみんなが心から楽しいと思って、舞台に立てる環境ですね」

 劇団最古の花組を率いる心意気は半端では務まらない。「毎回、いい作品に、との覚悟でいます」と言う。蘭乃はな、花乃まりあに次ぎ、新たに迎えた仙名は3人目の相手役になる。

 「蘭乃のときは楽しく送り出したいと思い、花乃とは、2人とも初めてのことが多くがむしゃらで、今は冷静。仙名は優等生でしっかりしているのに、ポワーンとしているところもあって、私をどっしりといさせてくれる。今まで以上に落ち着いて、みんなのことを見られるようになりました」

 ゆとりが生まれ、変化もあった。「この先、大変だろうから、前もって準備を-とか。ようやく! 計算がちょっとずつ、できるようになりました(笑い)」。定評のある細かい役作りにも磨きがかかる。役柄の黒髪は「戦うので、気合の表れ」と言い、初のアップスタイルにした。

 ワインがテーマのショーは「チョイ悪な感じ」で、酔っぱらうコミカル場面もある。「酔っぱらった経験を思い起こしながらやります」。いろんな経験を生かし、新たな相棒と再スタートを切る。【村上久美子】

 ◆古代ロマン「邪馬台国の風」(作・演出=中村暁氏) 争いが絶えない古代日本が舞台。倭国(わこく)連合の中心となる邪馬台国は、狗奴国(くなこく)と激しく対立していた。幼い頃に両親を狗奴国に殺されたタケヒコ(明日海)は、生き抜くために戦う術を習得。狗奴の兵に襲われた娘マナ(仙名)を助ける。平和な暮らしを守ろうと巫女(みこ)になったマナは、大巫女の位を受け「ヒミコ」として邪馬台国の女王となり、タケヒコは同国の兵になる。新トップコンビの本拠地お披露目作は、歴史ファンタジー。

 ◆レビュー・ファンタスティーク「Santé!!」~最高級ワインをあなたに~(作・演出=藤井大介氏) ワインを楽しむように舞台に酔いしれる流れを目指し、ワインを飲んで見る「夢」を表現する。

 ☆明日海(あすみ)りお 6月26日、静岡市生まれ。03年入団。月組配属。08年「ミー&マイガール」で新人公演初主演。12年、月組準トップという異例の肩書を得て「ロミオとジュリエット」「ベルサイユのばら」で、当時トップの龍真咲と主演役代わり。花組へ移り14年5月、同トップ。一昨年、台湾公演主演。昨年末「金色の砂漠」は奴隷役、今年の「仮面のロマネスク」は未亡人と官能的な恋に落ちる青年貴族役。身長169センチ。愛称「みりお」「さゆみし」。