劇団理事で専科のスター轟悠(とどろき・ゆう)が、00年に文化庁芸術祭賞を受賞した主演ミュージカル「凱旋門」の再演に臨む。トップ望海風斗(のぞみ・ふうと)率いる雪組本拠地作へ出演。主人公の亡命医師を18年ぶりに演じる。雪組公演「凱旋門」「Gato Bonito!!」は、兵庫・宝塚大劇場で6月8日~7月9日、東京宝塚大劇場は7月27日開幕。望海は轟の親友役、トップ娘役真彩希帆(まあや・きほ)が轟の相手役ヒロイン。

 宝塚歌劇では異例。スターが18年前に主演した作品を自らの主演で再演する。

 「え? っと。喜び、驚きが入り交じっていた」

 雪組トップ時代の00年、ドイツからパリへ亡命してきた医師ラヴィックを演じて、文化庁芸術祭賞演劇部門優秀賞を受賞した作品。望海率いる雪組公演に出演しての再演が決まった。

 「当時は宝塚らしくないと言われました。愛、夢、キラキラした作品が多かったので、異色だったとは思います。でも、この作品こそ、命の尊さ、愛、希望であって…。自問自答しながら、伝わっていないなら、もっと伝えてやるって」

 細かい心理描写、哀愁に色気を含んだ目線送りを極め、男役としての究極の姿を提示した。初演作は柴田侑宏氏の脚本、楽曲は「宝塚のモーツァルト」と呼ばれた故寺田瀧雄さん、演出は謝珠栄氏。宝塚のスペシャリストが携わっていた。

 「18年を経たことで、幅広くリアルな部分が出てくると思う。今回、相手が変わるので、(関係性も)いい方向に変わっている。お稽古しながら、一瞬、いらぬ記憶が戻ってくることもあるんですけど…」

 初演時、同作の上演中に、宝塚音楽学校時代から指導を受けた寺田さんが急死。告別式に行けなかった。

 「新人公演の最中にも歌稽古をしてもらい、うまくなったねとほめてもらった。ショックが大きく、奥歯をかみしめながら歌っていたんです。今も寺田先生の顔が浮かぶので、本番、泣かないようにしなきゃ…」

 切ない記憶も、痛みの経験値にする。今回はトップ望海を親友役に、運命の出会いをするヒロインはトップ娘役の真彩が演じる。

 「だいもん(望海)は、とてもナチュラル。いい目を持っていて、宝塚の伝統をきっちりと体の中に入れている人。これからが楽しみ。共演は、私の喜びのひとつでもあります」

 真彩には「屈託ない」素顔に魅了され、「タンポポ」「ひまわり」などと、季節ごとにニックネームをつけた。組長の梨花ますみは上級生。安心感もある。稽古場は明るく盛り上がる。

 「だいもん、きいちゃん(真彩)。相手役2人ともしっかりしているので、彼女たちがこう動きたいなら、私はこうしようって」

 共演する下級生に、伸び伸びと表現させる手腕に定評がある。02年、故春日野八千代さんの後継にと劇団に請われ、専科に移った。

 「春日野先生は、宝塚の形式美、絶対的な美しさを見せてくださり、私たちも受け継いできた。私の役目は、そこにリアリティーを入れることかなって思う」

 かつて、海外ミュージカルのスタッフが、轟を見て「男以外の何物でもない」と評したほど、比類なき男役のスキルがある。「みんなと一緒に新しい凱旋門を作り、新たなラヴィック像を」。男役の“体現者”として、轟自身も、新たな扉を開く。【村上久美子】

 ◆ミュージカル・プレイ「凱旋門」-エリッヒ・マリア・レマルクの小説による-(脚本=柴田侑宏氏、演出・振付=謝珠栄氏) 第2次世界大戦前夜のパリには、祖国を追われた亡命者たちが集まっていた。ドイツから亡命してきた外科医ラヴィック(轟)は、人生を達観。友人ボリス(望海)の助けを得て、敵(かたき)を捜すうち、生きる希望となるジョアン(真彩)と出会い、恋に落ちる。 

 ◆ショー・パッショナブル「Gato Bonito!!」~ガート・ボニート、美しい猫のような男~(作・演出=藤井大介氏) タイトルは、ポルトガル語で「美しい猫」を意味する。クールで気まぐれ、気品あふれるしなやかさ…猫に着想した望海と雪組生に重ねて描くラテン・ショー。

 ☆轟悠(とどろき・ゆう)8月11日、熊本県生まれ。85年入団。97年雪組トップ。02年に故春日野八千代さんの後継として専科へ、03年から理事。00年「凱旋門」で文化庁芸術祭優秀賞、02年「風と共に去りぬ」で菊田一夫演劇賞。15年「オイディプス王」、16年「双頭の鷲」など主演多数。昨年は博多座で月組「長崎しぐれ坂」、今年は外部劇場で星組「ドクトル・ジバゴ」と、各組公演にも出演。趣味は油彩画、デッサン画。168センチ。愛称「トム」「イシサン」。