劇団理事で専科スター轟悠(とどろき・ゆう)が、東京・日本青年館ホールで30日に開幕する月組公演「ミュージカル チェ・ゲバラ」で、キューバ革命の指導者を演じる。宝塚歌劇では異色の主人公。劇団きっての「男役」の体現者が、ひげの革命家に臨む。東京公演は8月5日まで。大阪市北区のシアター・ドラマシティで8月11~19日。

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あごひげに口ひげ、右手には銃を担ぎ持つ。宝塚歌劇では異色の主人公像。“男”は、何かを射るような鋭い眼光だ。

「また、ひげもの(笑い)。ポスターをご覧になられた方のイメージを壊さないように。これ、けっこうシワを入れているんです」

過去にはリンカーンも演じた轟が、今度はキューバ革命を遂げた男に臨む。

「写真も映像も残っている。アルゼンチン生まれで不自由なく育ったんですが、貧しい人を救おうと動く。ラテン系。メキシコに滞在し、キューバ革命にまい進していく姿は、日本人にないリズム、熱です」

戦闘場面も多く、本格的なものになりそう。軍服も、実際に戦地で兵士が着用した“本物”の衣装だ。

「ファッション的な軽い(素材の)物じゃなくて、ダメージ感があって。本物を舞台で使う。手りゅう弾をつけていたベスト、ポーチひとつも凝っています」

演出の原田諒氏はリアルを求める。故春日野八千代さんの後継として、トップを退いて専科に入った轟にも、リアリティーを望む。

原田氏から「春日野先生は『プリンス』『白ばらの君』の形を成立させた。轟はそこにリアリティーを追求していく」と言われた。

轟も知らず知らずに、よりリアルな男性像を求め理想に近づいてきた。

「性格、気質、風貌から、そういう役回りになったのかな。もともとは夢の世界、宝塚にあこがれて入ったんですけどね(笑い)」

そう笑いつつも、今作主人公へ熱い思いも抱く。「革命に身を投じながらも、優しさを忘れない。(もとは医師で)政府軍に対しても治療を行うし」。共演の月組メンバーは若手も多い。ヒロインは男役から転向した5年目の天紫珠李(あまし・じゅり)、カストロには6年目の風間柚乃(かざま・ゆの)がふんする。後輩へ金言も授けた。

「演出家の先生に言われた言葉を、頭で考えるのではなく、心に響かせて動くこと。研1でも、研2でも、そのやり方を学んで。そもそも研5、研6だと、一番組の戦力にならなきゃいけない時期なんだから」

風間、天紫らの世代は伸び盛り。「『私はまだ何年目』と言うのは、自分に甘いだけ。『まだ研2ですが、これぐらいやります』と言ってほしい」。後輩に求める“熱さ”が、轟をゲバラに共感させる。ゲバラは来日時、広島を訪れ、核兵器廃止への思いを強くし、声をあげた。実も探り、役作りを進める。

「歴史上の人物を演じる際には、皆さんが知っていることの“下の部分”を大事にしたい。言葉の裏、写真の裏、中身ですね」

史実、人物への敬意。キューバ大使館から「楽しみ」とのコメントも、もらった。大使館に公演ポスターが飾られているそうで「大使館の方が喜んでくださり、ポスターをお送りしました」。東京公演観劇の意向も聞いた。本国からの期待も励みに、轟流“ゲバラ”を届ける。【村上久美子】

◆ミュージカル「チェ・ゲバラ」(作・演出=原田諒) サルトルに「20世紀で最も完璧な人間」と言わしめたエルネスト・ゲバラ(通称チェ・ゲバラ)の半生を描く。ゲバラはアルゼンチンの裕福な家庭に生まれながらも、ラテンアメリカの貧困を憂い、列強国の支配を打破すべく立ち上がる。キューバのフィデル・カストロ(風間柚乃)と同じ志を持ち、キューバ革命を成功へと導く。革命家であり、人間愛にも満ちた男。不屈の精神、高い理想を追う姿を、カストロとの友情、妻アレイダ(天紫珠李)との愛も交えてつづる。

☆轟悠(とどろき・ゆう)8月11日、熊本県生まれ。85年入団。97年雪組トップ。02年に故春日野八千代さんの後継として専科へ、03年から理事。00年「凱旋門」で文化庁芸術祭優秀賞、02年「風と共に去りぬ」で菊田一夫演劇賞。15年「オイディプス王」、16年「双頭の鷲」など主演多数。昨年は本拠地作の雪組公演「凱旋門」に主演するなど、各組公演や外部劇場にも出演。趣味は油彩画、デッサン画。168センチ。愛称「トム」「イシサン」。