1月期の冬ドラマが出そろった。新人脚本家の起用で話題をさらった前期の「silent」(フジテレビ)に続き、今期は大石静、北川悦吏子、安達奈緒子ら女性ベテラン各氏がラブストーリーに参戦しているほか、松本潤主演のNHK大河ドラマ「どうする家康」もスタートした。「勝手にドラマ評」53弾。今回も単なるドラマおたくの立場からあれこれ言い、★をつけてみた(シリーズもの、深夜枠は除く)

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月9ドラマ「女神(テミス)の教室~リーガル青春白書~」(C)フジテレビ
月9ドラマ「女神(テミス)の教室~リーガル青春白書~」(C)フジテレビ

◆「女神(テミス)の教室~リーガル青春白書~」(フジテレビ系、月曜9時)北川景子/山田裕貴

★★☆☆☆

ロースクール(法科大学院)に派遣教員として赴任した女性裁判官の異色授業。六法全書の暗記より「人」を見ろというテーマはまっとうだし、自分の言葉を持つ落ちこぼれの方が実戦に強かったという1話の逆転劇も健康的ではあった。とはいえ、授業の内容が「ぼくもいけんをいっていいんだ」「ぷりきゅあのたとぅーならこわくない!」「よくできましたぱちぱちぱち」という感じで、大学院というより「さわやか3組」っぽい。すぐつっかかる院生たちの幼稚さも、今どきの20代に失礼な気がする。きれいごとパワー(北川景子)と判例主義者(山田裕貴)の価値観バトルこそ「人と法律」の最高の教材。もっと山田くんを動かして、前後輪セットで学生を導いてほしい。

月10ドラマ「罠の戦争」(C)フジテレビ
月10ドラマ「罠の戦争」(C)フジテレビ

◆「罠の戦争」(フジテレビ系、月曜10時)草なぎ剛/井川遥

★★★★☆

草なぎ剛の「戦争シリーズ」第3弾。今回は政界を舞台に、愛する家族を傷つけられた議員秘書・鷲津亨の復讐劇を描く。草なぎ×脚本後藤法子氏のコンビはますます円熟味。「踏みつけられたらどれだけ痛いか教えてやる」。抜け殻、鬼の形相、冷静沈着な立ち回りなど、さまざまな角度から鷲津ワールドを立ち上げる草なぎの演技力。利害が一致する3人でのチーム戦も効いていて、まずはパワハラ秘書を失脚させた2話から罠と隠し球の展開力がもうすごい。共演女優が魅力的に見える草なぎマジックも健在で、今回は週刊誌のやり手記者、宮澤エマがしぶとくてかっこいい。

連続ドラマ「星降る夜に」(C)テレビ朝日
連続ドラマ「星降る夜に」(C)テレビ朝日

◆「星降る夜に」(テレビ朝日系、火曜9時)吉高由里子/北村匠海

★★★★☆

音のない世界のラブストーリーとあって前期の「silent」と比べられる試練はあれど、陽キャラ男子という正反対のアプローチは新鮮。ぐいぐい来る年下男子がたまたまろう者だったという自立した作風で、北村匠海が教えた手話「よきよき」の普段着パワーと、ひとつ覚えて世界が広がる吉高由里子の変化がドラマチック。命の始まりを扱う産婦人科医と、終わりを扱う遺品整理士。ハッピーだけではない両サイドの人間ドラマが、2人のラブをどう押し引きするのか興味が沸く。「かわいそう」への問題提起はさすがの大石静印。2話からストーリーが急にまとまったので、謎展開すぎた1話は忘れることにする。

TBS系火曜ドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」
TBS系火曜ドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」

◆「夕暮れに、手をつなぐ」(TBS系、火曜10時)広瀬すず/永瀬廉

★★☆☆☆

北川悦吏子氏脚本。九州から上京した自然児女子と、音楽の夢を追う都会っ子男子の恋。交差点でぶつかる出会いの後、公園で偶然再会、中華料理店でやけ食い中に偶然再会、危うく死にかけた橋で偶然再会。わずか半日で偶然の再会が4回もあり、たまたま転がり込んだ家が偶然永瀬廉の下宿先で同居スタート。偶然の乱用で描く「運命」に感情移入できなかった。広瀬すずは地方出身者の心の機微を九州弁で熱演し、東京の風景もヨルシカの主題歌も美しいだけに、映像のたたずまいとドタバタした脚本が合っていない感。夏木マリの「なごり雪」と、「ものを作るっていうのは人間が一番遠くまで行ける手段」はすてきだった。

水曜ドラマ「リバーサルオーケストラ」(C)NTV
水曜ドラマ「リバーサルオーケストラ」(C)NTV

◆「リバーサルオーケストラ」(日本テレビ系、水曜10時)門脇麦/田中圭

★★★★★

表舞台を去った天才バイオリニストと、ドSな天才マエストロがポンコツ楽団「玉響」を立て直す。課題曲やBGMに有名なクラシック音楽がたくさん出てきて楽しいし、メンバーが抱える問題が楽曲とリンクしている設計もドラマチック。ヒロイン門脇麦が頑張り屋で応援しがいがあり、過去のトラウマと闘った3話は染みた。大ホールに客を入れ、しっかり時間をとった「威風堂々」の演奏シーンは制作の志そのものだった。「僕のオケを評価できるのは、僕と聴衆だけだ」。毅然(きぜん)とした田中圭がしみじみとうまく、クライマックスのタクト振りもかっこいい。ヒロインの妹、恒松祐里の人間味は今期の助演女優賞。

水10ドラマ「スタンドUPスタート」(C)フジテレビ
水10ドラマ「スタンドUPスタート」(C)フジテレビ

◆「スタンドUPスタート」(フジテレビ系、水曜10時)竜星涼/小泉孝太郎

★★★★★

今期の掘り出し物。ワケあり人材を「起業」で再スタートに導く“人間投資家”の痛快劇。陽性の大胆不敵キャラを竜星涼がさっそうと演じ、懐の入り方、信用を勝ち取る過程、人材に合った起業コーディネートなど、この男の一手に興味が沸く。1話は窓際銀行員を稟議(りんぎ)書代行業で起業させるの巻。難しすぎない経営アカデミズムや、「資産は人なり」「リストラも次へのスタートアップ」などマンガ原作ならではの名ぜりふも楽しい。兄(小泉孝太郎)との対立を通し、三ツ星重工の次男坊としての品格も立ち上がってくるお得感。2話の野村周平の結末も染みて、今の時代、こういうキラキラな後味があってもいい。テーマは起業だが、すべての働く人向け。

木曜ドラマ「警視庁アウトサイダー」(C)テレビ朝日
木曜ドラマ「警視庁アウトサイダー」(C)テレビ朝日

◆「警視庁アウトサイダー」(テレビ朝日系、木曜9時)西島秀俊/濱田岳/上白石萌歌

★★☆☆☆

元マル暴刑事(西島秀俊)、ワケありのエリート刑事(濱田岳)、やる気なし新人刑事(上白石萌歌)のトリオが難事件に挑む。悪ノリ、パロディー、小ネタの脱線演出が全開で好みが分かれそう。やりたいのは「警視庁アウトサイダー」ではなく、往年の「トリック」なのかも。自称霊能者のトンデモワールドにはハマるワールドも、殺人事件という王道の題材だとあまりなじまず、こちらの理解力では1話はちんぷんかんぷんだった。女性がお茶くみ、「地取り」を指示され「自撮り」でピース。組織の女性はドジっ子や不思議ちゃんでいてほしいという願いが正直。

木曜劇場「忍者に結婚は難しい」(C)フジテレビ
木曜劇場「忍者に結婚は難しい」(C)フジテレビ

◆「忍者に結婚は難しい」(フジテレビ系、木曜10時)菜々緒/鈴木伸之

★★★☆☆

今も敵対関係にある甲賀忍者と伊賀忍者の末裔(まつえい)が、互いの素性を隠して隠密結婚生活。設定は明快だし、ドローンやQRコードを使った令和の忍者も面白いけれど、バレそうな大ピンチが事なきを得るというパターンが何話も続くのは「ルパンの娘」と同じでちょっと飽きる。オープニングのカメラ目線トークも含め、このカジュアルさは深夜ドラマで底抜けにやってくれた方が楽しめたかも。菜々緒と鈴木伸之の見え方がちゃんとお似合いというキャスティングは夫婦ドラマとして信頼できる。「silent」の後にこれを持ってくるフジテレビの振り幅。

TBS系金曜ドラマ「100万回言えばよかった」
TBS系金曜ドラマ「100万回言えばよかった」

◆「100万回言えばよかった」(TBS系、金曜10時)井上真央/佐藤健/松山ケンイチ

★★★☆☆

安達奈緒子氏脚本。突然恋人を失ったヒロイン、幽霊となってそばにいる男、2人の橋渡しをする霊媒者。映画「ゴースト」(90年)のフォーマットに、死の真相のミステリーをプラス。1話は井上真央と佐藤健のラブシーンが長くて照れてしまったが、2話で謎解きが動きだしてテンポが上がった。霊が見えてしまう刑事の巻き込まれ感を松山ケンイチが絶妙な切り替え力で見せ、霊媒役がうまいとあの世系ファンタジーが締まる。死を断定しない描写、マツケン側の謎など今後のネタ仕込みもぬかりなく、インパルス板倉の「生き返り方教えてやろうか」も今後効きそう。「ゴースト」世代としては、さすがにこのラブ展開には既視感がある。

日本テレビ系土曜ドラマ「大病院占拠」
日本テレビ系土曜ドラマ「大病院占拠」

◆「大病院占拠」(日本テレビ系、土曜10時)櫻井翔/比嘉愛未

★★★☆☆

謎の武装集団に占拠された大病院で、休職中の刑事が人質解放のため戦う。不死身すぎる男の「ダイ・ハード」かと思ったら、ちょっとキレがアレなアクション、昭和の合成みたいなCGなど、予想外のトンデモクオリティーで逆に気になる。タケコプター並みにのんびり偵察する自爆型ドローン、3階から転落しても平気な櫻井翔、比嘉愛未の異次元の怪力など、SNSのツッコミ上手たちの投稿とセットで見るとさらにおもしろい。鬼のお面をかぶった10人の覆面集団が、人質という名の悪人に私刑を下していく展開とも見どころのひとつとなる。2話で早くも櫻井翔が病院を出てしまい、交渉人として鬼たちと戦う流れに。

大河ドラマ「どうする家康」(C)NHK
大河ドラマ「どうする家康」(C)NHK

◆大河ドラマ「どうする家康」(NHK、日曜8時)松本潤ほか

★★★★★

戦国ファン、古沢良太ファンとして「こんな大河が見たかった」というど真ん中。すぐ泣くわ、決断できないわ、「どうする家康」というより「大丈夫か家康」というむき出しの青年像が新鮮で、秒で囲まれたり裏切られたりする戦国時代のシビアがよく分かる。幼少期からのトラウマとなる織田信長を岡田准一がやばい色気で演じていて、恐怖だけではなかった学びのさく裂は、天下取りRPGの最初の1歩として見応えがあった。武将として強くなるというより、ハッタリ力を学んで戦国を生き抜く感じも共感できる。軽さとシリアスのコントラストも効果的。子役時代は後々にして、1話からこの主演についてこいという作風は信頼できる。

TBS系日曜劇場「Get Ready!」
TBS系日曜劇場「Get Ready!」

◆「Get Ready!」(TBS系、日曜9時)妻夫木聡/藤原竜也

★★☆☆☆

高額報酬でどんな手術も請け負う闇医者チーム“仮面ドクターズ”の暗躍。「救う価値がない人間は救わない」というヒーロー設定はあるものの、医者の見せ場は「手術で命を救う」の1択なので、あれこれ正当化しながら悪人を救わないとストーリーにならない初期設定が苦しい。「実はいい人でした」のパターンはカタルシスが薄く、クズを最後までクズとして描く「罠の戦争」との貫禄の違いを感じる。光るお面、「ゲットレディ!」の巻き舌などの小ネタは好みが分かれるところ。個人的には、妻夫木聡と藤原竜也を逆で見たかった。というか、人数多すぎ警視庁コントの方が出番が多い印象で、もっと2人に集中してほしい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)