プレーバック日刊スポーツ! 過去の3月3日付紙面を振り返ります。1995年の芸能面(東京版)では「ジェット・ストリーム」(TOKYO FM)のパーソナリティを27年間務めた声優・城達也さんの死去を報じています。

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 声優・城達也(じょう・たつや)さんが2月25日に食道がんのため死去していたことが2日、分かった。63歳だった。城さんは米俳優グレゴリー・ペックなどの声優として親しまれ、「ジェット・ストリーム」(TOKYO FM)のパーソナリティーを昨年暮れまで27年間、7387回休まず務めた。昨年3月、食道がんの手術をした際、声優の命の声帯を守りたいと医師に懇願していた。

 城さんは2月25日午後8時10分に長男裕也さんの夫人にみとられて亡くなった。城さんの体調は小康状態だったため、看病していた篤美夫人と裕也さんが帰宅したが、その直後に容体が急変した。遺族の希望で2日に密葬が行われ、同日初めて死去が公になった。

 城さんは昨年3月1日に、食道がんの手術を受けた。食道がんと知らされ手術を受ける際、「声帯は私の命。声が変わらぬよう、ぜひよろしくお願いします」と医師に懇願したという。手術は無事終了し回復したが、夏にがんが肝臓に転移していることが分かった。昨年暮れに慶応病院に再入院。今年初め黄疸(おうだん)症状が出て急激にやせたという。

 1967年(昭42)7月から一回も休まずパーソナリティーを担当してきたTOKYO FMの看板番組「ジェット・ストリーム」(日本航空提供)は、再入院のため昨年12月30日に降板した。「死ぬまで続ける」と誓っていた城さんにとって、27年、7387回目の悲しい降板で、放送の最後に「いつの日か雲のかなたでお会いしましょう」と聴取者に伝えた。その直後から聴取者の電話が鳴りやまなかった。

後を継いだパーソナリティー小野田英一氏(41)は「仕事熱心な方でいろいろ教えていただいた。すごいプレッシャーを感じますが、城さんの遺志を継ぎ頑張るだけです」。

死去する直前、城さんは「3月はアニメの仕事があるので行かなくちゃ」と篤美夫人に語りかけた。この仕事は城さんの事務所「東京俳優生活協同組合」が、入院のため事前にキャンセルし、城さんにも伝えていた。城さんは最後まで「治るから大丈夫だ」と言っていたという。

 仕事とゴルフ(ハンディ9)が趣味で、グレゴリー・ペックやロバート・ワグナーの吹き替えは、城さんでなければ視聴者から苦情が来たほどだった。グレゴリー・ペックの「ローマの休日」「ナバロンの要塞」は映画の内容とともに、城さんの声でテレビの視聴者を魅了した。「遙(はる)か雲海のうえを 音もなく流れ去る気流は 限りない宇宙の営みを告げています」というジェット・ストリームの名ナレーションを残し、城さんは永遠の夜間飛行に旅立った。

■JET STREAMの冒頭ナレーション

ジェット・ストリーム……

遠い地平線が消えて

深々とした夜の闇(やみ)に心をやすめるとき、

遙(はる)か雲海のうえを

音もなく流れ去る気流は

限りない宇宙の営みを告げています。

満天の星をいただく果てしない光の海を

豊かに流れゆく風に心をひらけば

きらめく星座の物語も聞こえてくる

夜のしじまのなんと饒舌(じょうぜつ)なことでしょうか。

光と影の境に消えていった遙かな地平線も瞼に浮かんでまいります。

日本航空があなたにお送りする音楽の定期便、ジェット・ストリーム。

皆さまの夜間飛行のお供をいたしますパイロットは、わたくし、城達也です。

 ◆城達也(じょう・たつや) 1931年(昭6)12月13日、大分県出身。早大文学部卒。大学在学中から演劇活動を行い、テレビ創成期にはNHK「事件記者」TBS「七人の刑事」などに準レギュラーで出演。グレゴリー・ペックの吹き替えが評判となり、声優活動が多くなる。79年にはACC賞(ナレーション部門)を受賞。

※記録と表記は当時のもの