第90回アカデミー賞授賞式が4日(日本時間5日)、米ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われる。大物プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン氏のセクハラ問題で、揺れっぱなしのハリウッドでは本筋の賞レース、作品に話がなかなか向かない状況…。その中、ニッカンスポーツコムは、しっかりと賞レースを予想します。かつてアカデミー賞の現地取材でタッグを組んだ、村上幸将記者と、ロス在住の千歳香奈子通信員による大予想大会その2、スタート!!

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 村上 ギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」が作品賞、デル・トロ監督が監督賞と脚本賞、サリー・ホーキンスが主演女優賞、リチャード・ジェンキンスが助演男優賞、オクタビア・スペンサーが助演女優賞、さらに作曲賞、編集賞、衣装デザイン賞、美術賞、撮影賞、音響編集賞、録音賞と、最多13部門にノミネートされリードするものと見られていましたが、授賞式1週間前に気になることが?

 千歳 投票の締め切りは2月27日(現地時間)だったんですが20日に、60年代に書かれた、極秘の施設で働いている孤独なお年寄りが捕らえられているイルカを助ける舞台劇の盗作だと、原作者の遺族が主張したんです。

 村上 「シェイプ・オブ-」は、政府の極秘研究所で清掃員として働く、しゃべることが出来ない孤独なイライザ(ホーキンス)が、同僚のゼルダ(スペンサー)と不思議な水生生物を使った極秘の実験を見て、その生物と種別、言葉を超えた愛を育む物語です。

 千歳 デル・トロ監督は、類似点が約70個あると指摘され「原作を読んだことも舞台を見たこともない」と言っていますが、投票権を持つ人の心証に影響があった可能性はあります。

 村上 「スリー・ビルボード」は作品賞、フランシス・マクドーマンドが主演女優賞、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルがダブルでノミネートされた助演男優賞、脚本賞、作曲賞、編集賞の6部門で7ノミネート。対抗馬と目されていますが、全米映画俳優組合賞(SAG)作品賞に当たるキャスト賞、マクドーマンドが主演女優賞を受賞し、追い風ですね。

 千歳 ハリウッドは、セクハラ問題の嵐が吹き荒れている状況ですから、強い女性、母を描いたこの作品こそ、オスカーにふさわしいと訴えるものはあるのではないでしょうか?

 村上 娘が殺されて数カ月が経過しながら、犯人が逮捕される気配がないことに怒ったミルドレッド(マクドーマンド)が、町外れに3枚の巨大な広告板を設置して無能な警察に抗議し、それに怒る警察との戦いが描かれます。ミルドレッドが警察に火を放ったり、逆に警察がミルドレッドの協力者に暴行を加えるなど、やられたら、やり返す復讐(ふくしゅう)劇ですが、2月14日にフロリダ州の高校で銃の乱射事件があり多数の死傷者が出て米国でも銃規制の声も上がっていると報じられています。

 千歳 米国の社会を反映した作品と言えると思います。特に舞台となったミズーリ州などの地方では「銃を持たないと、どうわが身を守るの?」といった考え方が普通という風土があります。トランプ大統領自ら「教師が銃を所持していたら攻撃を終わらせられたかもしれない」と教師の武装化を検討する意向を示し、全米ライフル協会(NRA)のように銃を支持する人も少なくありません。一方で、一般の映画ファンは「シェイプ・オブー」がオスカーにふさわしいと考えていることも明らかになっています。ノミネート作品全てを見た7000人の一般映画ファンへの調査の結果、19%が「シェイプ・オブー」に投票し、続いて「ダンケルク」、「ゲット・アウト」という結果で、「スリー・ビルボード」は4位止まりです。

 村上 作品賞、主演女優賞、助演男優賞は「シェイプ-」と「スリー-」の一騎打ちでしょうね。主演女優賞は、しゃべることが出来ない女性を手話を交えて熱演したホーキンスの“静の演技”と、戦う母を演じたマクドーマンドの“動の演技”の激突かと。

 千歳 監督賞はデル・トロが有力も、セクハラ問題の影響から女性で唯一ノミネートされた「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグも、強い女性だと支持される可能性はあります。

 村上 主演男優賞は「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(ジョー・ライト監督)のゲイリー・オールドマンが鉄板との見方が強い。メーキャップ&ヘアスタイリング賞で3度目のノミネートとなった辻一弘さんに自らオファーし、合計200時間以上かけて作り上げたメークに加え、チャーチル英首相のスピーチを研究し、声色から近づいた。

 千歳 俳優生活約40年で3度目のノミネートということもあり、功績から見ても米国でもオールドマンのオスカーは、ほぼ確実視されています。辻さんも濃厚と言われていますね。

 村上 助演男優賞は、どうでしょう? 「スリー-」でキレた警官を演じたサム・ロックウェルの、突き抜けた演技は印象的です。

 千歳 「ゲティ家の身代金」の完成後にセクハラ問題でケビン・スペイシーが降板し、全米公開1カ月前に行われた再撮影で急きょ代役を務めた、クリストファー・プラマーが、同作品から唯一、ノミネートされました。セクハラ問題へのバッシングが飛び交う中、プラマーへの評価が高いことの表れでしょう。

 村上 助演女優賞は、「シェイプ-」のスペンサーの存在感が強かった。

 千歳 平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)が終わったタイミングですが、元フィギュアスケート選手トーニャ・ハーディング氏の伝記「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」も良かったです。主人公の母を演じたアリソン・ジャニーが助演女優賞にノミネートされていますが…ここまでを振り返ると、今回のノミネートも白人が多いです。15年、16年と白人しかノミネートされず「白すぎるオスカー」と批判されていますが、そのあたり、バランスも考慮に入れるかも知れませんね。

 では、ここでお互いの主要賞の予想を!!

 千歳 <作品賞>◎「シェイプ-」

〇「スリー-」

△「レディー-」

 <監督賞>◎デル・トロ(『シェイプ-』)

〇クリストファー・ノーラン(『ダンケルク』)

△ガーウィグ(『レディー-』)

 <主演男優賞>◎オールドマン(『ウィンストン-』)

〇ティモシー・シャラメ(「君の名前で僕を呼んで」)

 <主演女優賞>◎マクドーマンド(『スリー-』)

〇ホーキンス(『シェイプ-』)

 <助演男優賞>◎ロックウェル(『スリー-』)

〇リチャード・ジェンキンス(『シェイプ-』)

 <助演女優賞>◎ジャニー(『アイ-』)

〇スペンサー(『シェイプ-』)

△ローリー・メトカーフ(『レディー-』)

 村上 <作品賞>◎「シェイプ-」

〇「スリー-」

△「ダンケルク」

 <監督賞>◎デル・トロ(『シェイプ-』)

〇ポール・トーマス・アンダーソン(『ファントム・スレッド』)

△ノーラン(『ダンケルク』)

 <主演男優賞>◎オールドマン(『ウィンストン-』)

○ダニエル・デイ・ルイス(『ファントム-』)

 <主演女優賞>

◎ホーキンス(『シェイプ-』)

〇マクドーマンド(『スリー-』)

 <助演男優賞>◎ロックウェル(『スリー-』)

〇ジェンキンス(『シェイプ-』)

 <助演女優賞>◎スペンサー(『シェイプ-』)

○レスリー・マンビル(『ファントム-』)

(◎=本命、○=対抗馬、△=大穴)

 前回はトランプ政権の白人至上主義、厳しい移民政策への抗議が絡んだ、政治色の強いアカデミー賞となった。今回も、ハリウッドを揺るがすセクハラ問題の嵐が吹き荒れ、本筋の作品、映画にスポットが当たりにくい状況となっている。司会は、前回の授賞式で「トランプ政権が国を分断している」と批判し、話題を呼んだコメディアンのジミー・キンメル(50)が続投する。キンメルはABCテレビのニュース番組で、セクハラなど社会問題を時事ネタとして取り上げるか? と聞かれると「ノミネート作品に失礼なこと、招かれた関係者に不快な感情を与えるような司会はしたくない」と語ったが、全世界の人々が見詰める授賞式で、キンメルがどのようなメッセージを発信するかも注目すべきポイントだ。