女優篠田麻里子(32)が、俳優、脚本家、演出家と多彩に活躍する宅間孝行(47)の舞台「笑う巨塔」(3月29日~4月8日、東京グローブ座)に29日から初出演する。

 今作は「歌姫」、「くちづけ」など、ドラマや映画化もされた名作を幾つも執筆してきた宅間が、「シチュエーションコメディーの最高傑作」という。目下、稽古の最終段階に入る2人に話を聞くと、劇場論に共感し合い、大いに盛り上がった。【瀬津真也】

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 今年の篠田は、年明けから休みなく舞台に臨み続けている。2月から3月4日まで、初座長を務めた主演舞台「アンフェアな月」に出演。推理もので、膨大な量のセリフを話す女性刑事役を演じた。何と、今回の「笑う巨塔」の稽古は、「アンフェアな月」の上演中には始まっていた。

 篠田 アンフェアは、目に見える部分だけじゃなくて精神的にもタフでした。セリフ量が多いだけじゃなく、文面も少しも間違えられない作風。稽古中からすごく怖くて、1日1回は涙が出て、セリフが飛んだりする悪夢ばかり毎晩見ていて、追い詰められてました。始まってからも何が正解かも分からなくなったりして、必死に舞台に立っていたんですが…。

 宅間 アンフェアの舞台中にウチの稽古が始まっちゃってたんだよね。

 篠田 そうなんです。休演日にタクフェスの稽古場に来たら、共演者のみんなが、もう台本も持たずにやっていて、「これはマズイ」ってプレッシャーを感じちゃいました。私自身は、気持ちもボロボロ状態でどうしようかと。

 -しかも「アンフェアの月」と「笑う巨塔」は、全く毛色の違う作風です

 篠田 なので、中途半端な気持ちでやるのが一番良くないと判断して、まずは「アンフェアの月」に集中しました。その千秋楽(3月4日)の夜に「笑う巨塔」の台本を覚えました。

 宅間 アンフェアのセリフが膨大だったから、見に行って「こりゃ、俺は無理」って思ったもん。本当に地獄だったでしょ。稽古前の準備期間が持てないのは、きついですよ。

 -追い込まれるというと、篠田さんは12年前にカフェの店員だった時、秋元康氏に「4日間で12曲の歌と振りを覚えられたらデビューさせてあげる」と言われて、未経験にもかかわらず連日の徹夜で習得していました

 宅間 えっ? 芸能界に入る時から、そんなムチャしてたの? カフェのバイト? 普通のオーディションで入ったわけじゃなかったんだ? へぇー、ムチャクチャだったね。ちゃんと苦労してきたんだね。

 篠田 そんなこともありました(笑い)。

 -AKB時代は、アイドル活動にモデル業なども重なり、殺人的スケジュールでいろんな仕事を掛け持っていましたが

 篠田 確かに、あのころも忙しかったですけれど、今回の大変さは、また全然違うんです。女優業では、舞台と映像(映画やドラマ)の掛け持ちもあるけれど、舞台の掛け持ちは一番大変でした。共演の梅垣義明さんにも「舞台の掛け持ちは絶対やらないよ」と言われました(笑い)。

 -先に「アンフェアな月」が決まっていたところに、今作の出演オファーがありました

 篠田 普通ならスケジュール的には避ける、諦めるところですけど、そこまで無理をしてでも、どうしても宅間さんの作品に出たかったので「やりたいです」って即答させていただいていました。

 -そこまで熱望した理由は?

 篠田 タクフェスは、いろんな舞台の中でも、よりお客さんを大切にされているカンパニーという印象です。役者とお客さんが一緒に楽しめる空間作り。私もお客さんがほぼいないところからスタートして、いかに楽しませて共感し合えるかを追求した場所(AKB48劇場)で育ってきたので、私がずっと一番大切に思ってきた部分と、宅間さんの舞台が一緒だったんです。

 宅間 俺も1年以上前にAKB48劇場の客席3列目で見学させてもらったんだよ。あの劇場は素晴らしい空間。理想的だよね。

 篠田 あそこは250人入るんです。

 宅間 ウチも小劇場からスタートしたから、幕が開いてからの迫力は良かったわ~。篠田さんも最後はあそこだったの?

 篠田 はい。福岡ドームで卒業コンサートやらせていただいて、そのまま帰京して卒業公演は劇場でした。

 宅間 福岡ドームの直後に最後は劇場? それは最高だね。俺は、ウチの「歌姫」に出たあんにん(入山杏奈)を見に行ってたんだけど、あんにんだけじゃなくて、横山由依さんにもかなり目を奪われちゃってね(笑い)。

 篠田 由依ちゃんにですか?

 宅間 最初全くノーマークだったのに、1人だけ汗びっしょりでメッチャ踊ってたの。脇汗すごいの。それが間近で見えるもんだから、どうしても気になっちゃって、気づくと自然と応援しちゃってたんだよね。見終えてからAKB48グループの総監督だって聞いて、納得したよ。

 篠田 由依ちゃんをキャプテンに指名したの私だったんです(ほほ笑み)。

 宅間 そうなんだ。ああいう姿勢の子をリーダーに指名するなんて、さすがに見る目があるね。

 篠田 誰よりも努力家だったからです。高橋みなみもそうだったけど、そういう人が上に立って、背中を見せてほしかったんです。

 宅間 一生懸命やってると輝いて見えるよね。結局、芝居の舞台もアイドルの劇場も一緒。最後に世の中を感動させるのって、芝居のうまい下手じゃない部分にあるんだよ。その何かってのは、たぶん、いかにその時の舞台に向き合っているかっていう点じゃなく、もっと長い線だと思う。横山さんも、あの舞台に自分(の日々や生き様を)を出していたからなのかなって。お客さんと対面していると、それは絶対に透けて見えてしまう。だから下手なことはそんな問題じゃなくて、稽古を含めた全2カ月間をどう向き合ってきたかが重要。それは、言い換えるとお客さんへの誠意。最も大切なのってそこなんだと思うんだよね。

 篠田 はい。

 宅間 努力でカバーできる範囲もできていないと、辛くなってくる。ずっとお客さんの前で積んできただけあって、篠田さんはそこが分かってるよね。

 -篠田さんのコメディー初挑戦はどうですか?

 宅間 初顔合わせのポスター撮りの時に、そんな不安を言ってたなって思い出すけど、稽古をやってきている中では、「初コメディーで苦手意識のある女優さん」とやってる趣は全くない。繰り返しだけど、あれだけの集団(AKB48)でトップ張ってきただけあって、全く大丈夫だし、もともと心配もしていなかった。今作は若手が多くて篠田さんは中堅なので、むしろ僕が厳しくした後の場のフォローを任せちゃってるぐらい。初仕事なのに、もう頼りにしている(笑い)。ストイックだし、頭がいいし、壁は軽く超えてくるよね。

 -初日直前の篠田さんの今の心境は?

 篠田 この稽古で、私個人は、今年初めて笑えたってぐらいに、鬱(うつ)から抜け出せました(笑い)。これ以上ないどん底からだったので、楽しい現場で良かったです。お客さんと一緒に笑って楽しみ合えること、そして宅間さんの舞台だからこその自分の新しい部分が出てくることが楽しみです。

 宅間 理屈で分かってる役者さんは多いけど、篠田さんは肌感覚で分かっているから、俺も楽しみ。

 -最後に舞台のPRを

 宅間 ウチの作品は「演劇」にカテゴライズされたくないところもある。演劇って映画やドラマに比べると楽しむ人の数が少ないから、敷居が高いと思われています。演劇を見たことない人、知らない人は、ウチを入口にするのは良いはずです。今はITやネットという不確かなところが最先端である時代だけれど、だからこそエンターテインメントは揺るぎない「生」に戻ってくると思っています。気楽に見られるコメディー作品なので、たまたまこの記事を目にした人が、東京グローブ座がある新大久保まで韓国料理を食べるついでとか、そんなノリで良いので足を運んでもらえたら、とんでもないワールドが広がっているかもよと(笑い)。

 宅間 あっ、ところで、篠田さんって、何でAKBの1期生オーディションに落ちたの?

 篠田 私、歌唱審査で中島みゆきさんの「悪女」を歌ったんです。歌い出しが「<歌詞>マリコの部屋へ」だから覚えてもらえるからと。そうしたら秋元(康)先生に「狙いすぎ。そういう子嫌い」って、落とされました(笑い)。

 宅間 アハッハッハ。そこから卒業コンサートは、福岡ドームで故郷に錦を飾るまでになって、最後はホームの小劇場でしょ。伊達に経験積んでないね~(笑い)。舞台の本番もよろしく。

 篠田 よろしくお願いします。

 

 ◆「笑う巨塔」 とび職の親方花田(片岡鶴太郎)が検査入院する都内の病院に、総選挙を控えた山内代議士が急病で運ばれてきた。一方、山内のライバル浜村代議士(石井愃一)も、親友の大相撲元横綱の親方を見舞いに訪れてきた。そこへ花田の元弟子でお騒がせ男の富雄(宅間孝行)が数年ぶりに見舞いに訪れる。周囲が慌てて頭を抱える中、花田の娘ふみ(篠田麻里子)だけは再会に喜び、富雄に抱きつく。平穏だった病院が、とんでもない騒動が起きようとしていた。共演は松本享恭、梅垣義明、かとうかず子、鳥居みゆきら。

 3月29日~4月8日・東京グローブ座

 4月13日~15日・愛知ウインクあいち大ホール

 4月17日~22日・兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール

 4月24日・愛媛ひめぎんホールサブホール

 4月30日・福井越前市文化センター