河瀬直美監督(48)の最新映画「Vision」(6月8日公開)の完成報告会見が26日、ホテル雅叙園東京で行われ、永瀬正敏(51)夏木マリ(65)岩田剛典(29)美波(31)が出席した。カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界3大映画祭すべてで女優賞を受賞したことがある仏女優ジュリエット・ビノシュ(54)と永瀬のダブル主演作。全編、奈良・吉野町でロケが行われ、厳かな深い森の中、フランスの女性エッセイスト(ビノシュ)と吉野で山守をする智(永瀬)らが、言葉や文化の壁を越えて心を通わせていく姿を描く。

 カンヌ映画祭常連の河瀬監督にとって、10本目の長編映画。「あん」(15年)「光」(17年)に続いて主演した永瀬は「昨日、初めて試写を見ましたが、見終わって家に帰ってから心が震えてしまいました。寝られなくなり、徹夜して今日ここに来ました」とあいさつした。

 河瀬作品初参加となった夏木は「台本と全然、違っておりました」と笑わせながら、河瀬監督の独特な撮影手法を紹介。「2週間、実際に山の中で生活しました。演じるというより、現地で生きる、暮らすという感覚。ヨモギ団子を食べるシーンがあるんですが、そのためにヨモギを摘むところから始めたほど。アイフォーンを取り上げられ、SNSも禁止。全く商売あがったりでしたけど、死にそうになりながら暮らし、そこにドキュメンタリーのカメラが入って(自然と撮られて)いた感覚。ほかではない経験」と振り返った。

 同じく初参加の岩田も「洗礼を浴びました」と笑いながら「劇中で出会わない設定の人とは、撮影前の『よろしくお願いします』のあいさつもダメで、衣装合わせで会っても、目を合わせちゃいけないし、口も利いてはいけなかった。徹底していて、永瀬さんとも最初は会わせてもらえず、撮影のワンカット目が発対面でした。ものすごく徹底している現場でした」と明かし、会見に招待されたファンを驚かせた。

 河瀬監督から重用される永瀬に言わせると「恒例というか、河瀬メソッド」。自身も撮入の約2週間前から山小屋で犬のコウと暮らし、山守としてチェーンソーの扱い方を学んだり、岩田と特殊伐採の抗議を受けた。大女優のビノシュも、フランスから来日して森の中の納屋で共同生活。起床したら顔をカメムシが3匹はっていたような毎日を送っていたという。

 今作も、こだわり抜いた河瀬監督は物語とともに自然や地球を守りたいメッセージを込めた。「山、森の奥深さ、森林の持つ意味を描きたかった。吉野の取材を重ねたら、自然と吉野杉が育ったんじゃなく、500年くらい、江戸時代の前の、ちょんまげだった時代に植えられて、循環してきた。しかし(林業は)担い手がいなくなり、衰退している。自然が破壊され、地球が疲弊していると思います。その危機感から、次への1歩をどう踏み出していくか。それが今作の原点。この時代に(問題提起する)この映画を撮れて、誇りに思います」と締めくくった。

 このほか、劇中音楽を担当したジャズピアニスト小曽根真(57)の生演奏や、この日解禁された予告映像のスクリーン上映などが行われた。6月8日の公開後の7月には、文化芸術イベント「ジャポニスム2018」の公式オープニング事業として特別上映されることも決まっている。