カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞し、大ヒット上映中の「万引き家族」(是枝裕和監督)。週末の興収ランキングは公開から2週連続首位と、ご覧になった方も多いのではないだろか。

 生活のため家族ぐるみで万引をする一家を描き、「家族とは何か?」「血のつながりがもたらすものは?」「幸せって?」など、さまざまな疑問を投げかける作品。

 是枝作品はよく「見る者に判断を委ねる作品」と言われ、人によって大きく評価が変わる印象があるが、個人的にはこの作品、監督作の中では比較的万人受けするものに仕上がっていると思う。「誰も知らない」に似た雰囲気がある。

 主演はリリー・フランキー、共演には安藤サクラ、松岡茉優、樹木希林など。演技派俳優がそろった作品だが、子役の演技も光っている。いや、「遜色ない」という表現が正しいかもしれない。

 2人の子役はオーディションで選ばれた。城桧吏君(11)の演技についてはさまざまなメディアで取り上げられているため割愛し、ここでは小学1年生の佐々木みゆちゃんのすばらしい芝居について、公開された今だからこそ紹介したい。

 記者は今年1月、都内スタジオでの撮影を見学させてもらった。あの一家が暮らす一軒家(足立区にある本物の家。一部シーンは本物の家を借りて撮影されたが、夜のシーン撮影時に子役を稼働させられないことから、残りはセットで撮影された)から家具を運び出し、そっくりそのままをセットで再現。セットはかなり狭いため、我々記者は、同じスタジオ内に簡単な壁を隔てた隣のスペースで、モニター越しに見学させてもらった。

 その日の撮影は、みゆちゃん演じるじゅりが育児放棄されベランダに放置されていたところを保護され、一家にやってきて何日か後、一家が鍋を囲むシーン。借りてきた猫のように部屋の隅でだまりこむじゅりだったが、樹木希林演じるおばあちゃんに「おふ」を食べさせてもらうと、無表情ながらもパクパクと食べる。その姿をほほえましく見つめる家族が印象的な、あたたかいシーンだ。

 カメラがみゆちゃんを捉え、モニターに映る。疑うような目つきで家族を見つめるじゅり。是枝監督は子役に台本を渡さず、その場で演技を付けることで知られる。指導する言葉まではモニター越しには分からなかったが、みゆちゃんに何らかの指示を出していた。

 休憩時、一家がセットから出てきた。樹木さんはソファに腰掛けて仮眠、他のキャストも飲み物や軽食をつまみながら、談笑している。

 みゆちゃんだけは違った。先ほどまでと表情が一変したかと思うと、元気にスタジオ内を走りだした。セットを抜け、我々記者が陣取るモニター側に走ってきた。スタッフの女性を相手に、鬼ごっこをしていたのだ。人なつっこい笑顔で、何かしゃべりながら、記者の足元をくぐり抜けていく。その姿は、天真らんまんそのもの。あの映画で見せた、いかにも人を信用していない様子の「じゅり」は、どこにもいなかった。

 映画を見ていると、「この子はもともとこういう子なのでは?」と思ってしまう。それくらい、みゆちゃんの演技は違和感がなく、完璧だった。でもそれは、是枝監督がふるいにかけて選び抜いたキャストの演技なのだ。パルムドール受賞には、間違いなくハイレベルな子役の演技が寄与している。