フジテレビ系で30日午後9時から特番「ギリギリ昔話」を放送する。第3弾となる今回は、かつて人気を呼んだ同局の過去の番組、現在では放送できないような過激な内容の番組を紹介、検証した。昨今、視聴率低迷が叫ばれる中、どうして過去の番組を検証し、現代の視聴者に届ける企画を放送するのか? 総合演出を務める木村剛氏に、その真意とテレビ制作者として同局の現状について思うところを聞いた。【村上幸将】

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 番組では、01年から03年まで放送した美容整形バラエティー「ビューティー・コロシアム」に出演して美容整形を受けた女性、99年から09年まで放送した恋愛観察バラエティー「あいのり」に出演した男女の、その後などを検証した。司会のブラックマヨネーズ、ヒロミ(53)、菊地亜美(27)、籠谷さくら(18)、乃木坂46久保史緒里(16)ら10代から50代まで幅広い年代が出演したが、現在、見られない番組の数々に驚きを隠さなかった。

 木村氏 昔と今は違うね、ということがテーマなんですけど、こういう番組があったねという形で、プラスアルファみたいなことが出来ないのかなという考え方が1番最初です。例えば「ビューティーコロシアム」や「あいのり」にしても今、どうなっているのかなという話が最終的に気になる。整形も、10数年たっても残っているのかな? という興味だったり。面白かったのは「あいのり」のキスのシーンに、若い出演陣が引いていたこと。「あんなに、生々しいキスなの?」というのがリアクションとしてあった。好意的な「キャー」もありつつ引いた「キャー」もあって面白かったですね。時代は変わったんだと思います。

 ゴールデン帯に放送された、現在ではあり得ないほど過激な番組も紹介した。93年2月9日午後7時半から放送の「大ハード王決定戦」は、タレントが急斜面を転がり落ちた揚げ句、数センチの至近距離から地雷の爆破に遭い、吹き飛んだ。ヒロミ(53)は「昔、テレビに出るのは命がけだった」と苦笑した。

 木村氏 あんな間近で爆破させたら(タレントの所属事務所や視聴者の間で)危険だという話になりますね。安全はもちろん、当時も気にしていたと思いますけど、今の基準から考えると、ちょっと…(苦笑い)

 74年3月8日には「世紀の対決! インドヨガ対日本忍者」と題し、忍者が頭上、ヨガの達人が大きな刀の刃の上に腹部を乗せた上で背中に、それぞれ置いた瓦をハンマーで割るなどして競い合う特番が、午後8時から90分、放送されていた。

 木村氏 ヒロミさんが「ビックリ人間って昔、流行ってたんだよ」って言ったら、みんな「へぇ~」って驚いていたり。確かに、ギネスみたいな番組も、よくあったなと。何で、インドヨガと忍者を対決させようと思うんだろう…思い付かないから、すごいと思うし、今は編成も多分、企画を通さないでしょうね。

 昨今、長期にわたる日本経済の低迷を受け、番組の制作費は大きく削減されているという制作関係者の声を少なからず耳にする。

連続ドラマでも大きな企画は映画並みのロケ、セット、機材が使われる一方、バブル時代と比較して数割…中には半額くらい削減された番組もあるという。その上、コンプライアンス(法令順守)の観点から、番組の企画内容そのものへの制限も強まった。その中、なぜ、今では制作、放送が難しいような過去の番組を特集したのだろうか?

 木村氏 正直、思うところはあります。うらやましいと思うのと、それを超えていかなければいけないというところ、半々ですね。いろいろなチェックが昔より増えたのが難しくなってきているんでしょうね。(昔の番組はコンプライアンスなど)関係ないと思えちゃうから面白いんだなと。今はそれ(コンプライアンス)を気にしなきゃ、絶対に放送はやっちゃあいけない。いろいろな法律や過去の事案を振り返りながらやっているわけですから。でも、ヒロミさんがおっしゃった「その時、その時に合ったものってあるからね」というのが、僕の中ですごく印象的なのですが、懐かしがってばかりいてはダメで、今でも絶対、面白い番組は作れますから。

 当たった番組があると、その企画に他局が追従する傾向が強く「パクリだ」という視聴者の批判の声も多い。そうした視聴者の声がダイレクトに伝わるSNSの普及も、番組作りに影響を及ぼしていると木村氏は指摘する。

 木村氏 視聴者の皆さんからのリアクションが、よりダイレクトに伝わるのもチェックですね。視聴者の皆さんとも、より近くなりましたね。

 木村氏は番組の中で、若手だった02年に企画し、放送した「トリビアの泉」で行った、直径10メートルの輪ゴムが何メートル飛ぶか、大砲と防弾ガラスのどちらが強いかなどの実験も紹介した。その裏で反省と、先につなげたいという思いが入り交じっていた。

 木村氏 制作費の面では、昔はかけ過ぎな面はあった。自分の個人反省ですけど、「トリビアの泉」は実験に金がかかっていました。いくらかかったのか全然、分かっていない(苦笑い)僕も本当に若かったので何も分からずやっていたし、やらせてくれたし、ばかことやっていたなと…。大砲対防弾ガラスなどシンプルな感じでやっていたんです。昔は発想が自由というか、変なことやっているなと感じましたね。ノリですね…半分。今も、それが大事だなと思っているんです。お金の問題だったり、コンプライアンスは考えなければいけないんですが、その中で考えていかなければいけないですね。

 次回は木村氏に、「ギリギリ昔話」で過去の番組と向き合い、検証した上で考える、今…そして、これからのテレビについて聞く。

 ◆「ギリギリ昔話」 「本当にあったギリギリの昔話」、「今と昔の違い」をテーマに、16年4月7日に深夜枠で第1回を放送。美容整形や刑事など各業界の生きる伝説たちに取材し、「鼻には象牙を入れ高くしていた」、「祭の興奮しすぎた観衆を鎮めるために空に銃を撃った」など、今では考えられない過去の話を聞き出す内容が受け、17年12月26日にプライムタイムに設けた特番枠「土曜プレミアム」に昇格し第2回を放送。不倫している人の今と昔の違いなどを取り上げた。