15年ぶりに取材現場に復帰。初のインタビューは、巨匠だった。

樋口可南子や宮沢りえの写真集で「ヘアヌード」ブームを巻き起こした篠山紀信氏(78)だ。こちらは「Sante Fe」発売時は高校生、同行カメラマンは平成生まれ。正直、緊張と不安を隠しながら「ヘアヌードで始まった平成を振り返る」というテーマで話を聞いた。

若造2人にも、篠山氏はおおらかだった。「平成は…いつからだっけ」。篠山氏のひとことで、雑談のように会話が始まると、理路整然と、流れるように自らの歩みと時代を話し続ける。「ヘアヌードは」「デジタルは」「辞めるときは」…。話をつかみやすく、聞きたいキーワードが次々と盛り込まれるトーク。こちらも肩の力が抜け、日常会話のように相づちを打った。1時間弱で質問は10度もなかったように思う。

ポリシーも明確だった。「時代を撮る」。エゴやテクニックに走るのではなく、時代に敏感に並走して、撮る。撮影技術、経験へのプライドをかいま見せる場面もあるにはあったが、こちらが勝手に抱いていた大所高所から被写体を選ぶ巨匠のイメージは、いい意味で完全に覆された。

取材を終えると、篠山氏は「飲んでいきなさい」と、少し冷めかけた紅茶を差し出してくれた。こちらが緊張と遠慮で手をつけられないのを察していた。篠山氏を取材する場はいつしか、篠山氏の懐の深さに引き込まれ、我々が被写体のように心を開く「スタジオ」になっていた。宮沢りえを始めとする数知れぬモデルたちもきっと、同じように引き込まれて、自らをさらけ出せたのだろう。