8月5日に“ロックの聖地”の東京・新宿ロフトでフリーアナウンサー古舘伊知郎(64)が、トークライブ「戯言(ざれごと)」を開く。今年4月に客員教授に就任した、母校立大では講座「現代社会における言葉の持つ意味」で、「情報化社会」「言葉」「脳科学」「仏教」をテーマに授業を行った。【小谷野俊哉、山内崇章】

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なぜ現代社会における言葉というテーマで、偉そうに仏教だ、情報化社会だと、やってるかというとね、やっぱり生身の人間が声帯という“楽器”を身につけて、これは霊長類の中でも人間だけなんで、どんなに頭のいいチンパンジーでもゴリラも人間ほどこんなおしゃべりじゃないんで。

書くこと、読むこと、できれば書籍で、紙をめくりながら、触覚で、紙の乾いた感覚を味わいながらめくって、匂いを嗅ぎながら読むという主体性性を持った読書と、それから、しゃべるということと。言葉っていうものは、もっともっと重要になってくる。

最後はコミュニケーションによって、人は活性化していくはずだらから。だからくだらないなと思うのは、将棋でAIが勝ったとか、ね、名人が負けたとかくだらないと思うんですよ。あれは、それ用に開発されたAIが勝って当たり前でしょ。

だって、なんか、陸上の短距離・長距離をバイクと人間が走ってバイクが勝つって当たり前じゃないですか、それ用の機械なんだから。そんなもん、人間が負けるに決まってるじゃないですか。でもガソリンを入れなかったら人間の方が持久走、強いじゃないですか。バイク、走れないじゃないですか。

向き不向きってあるわけで、だから、そういうAIにも期待するし、代替労働してもらってね、人間も少しAIのおこぼれをもらって暮らす時代が来るかもしれない。だけど、やっぱり人間なので、人間対人間の言葉を使った対話、コミュニケーションということが今以上大事になる。具合的には、機械音が流れすぎなんですよ。街に。昔のね啖呵売(たんかばい)とか、香具師(やし)の声もなくなった。それで、マニュアル言葉のコンビニの言葉しかなくなった。新宿のコンビニで「飲み物買うんでトイレありますか」って聞くと、「トイレありません!」って。機械の声ですよ。トイレあるんだけど、汚く使われるから、新宿の歌舞伎町の入り口あたりのコンビニはトイレがないっていううそがまかり通るという、その冷たい感じ。

誰も優しくしてくれとは言わないけども。あと、例えば、いいマンションいけば、「お風呂が沸きました!」って言うし、果たして人間の言葉なのかって。意味は通じるけど。で、大きいダンプカーが、「バックします」、ピッピッピッて言ってるわけ。駐車場を出る時に、「料金は350…円です」って言うわけじゃないですか、合成だから。そういうことに、慣れていいのかなと思うんですよ。

だから、そういうのを経て、プラットホームで、「黄色い線まで下がってお待ちください」って言っちゃってて、だから、やっぱり、肉声がだんだん疎ましくなってきてて。肉声がうるさいって言われるでしょ。だから、うるさいって言われると、盆踊り大会中止したりするんですよ。うるさいという意見を聞いとけと、それがリスク管理になっちゃってる。うるさいじゃないんですよ、それを楽しめって感じなんですけど。スマホとか光る画面から出てくるものじゃないと、自分が自由自在に音量調節できないと気が済まない。これが情報化社会の副作用だと思ってる。

だからそういう事も大学の授業で言ったし、口すっぱく、うるさいじじいだなと言われるのを承知で言ったけど、言葉は大切になるよもっと、と。

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◆古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)1954年(昭29)12月7日、東京都生まれ。立大卒業後の77年にテレビ朝日入社。同8月からプロレス中継を担当。84年6月退社、フリーとなり「古舘プロジェクト」設立。85~90年フジテレビ系「夜のヒットスタジオDELUXE、SUPER」司会。89~94年フジテレビ系「F1グランプリ実況中継」。94~96年NHK「紅白歌合戦」司会。94~05年日本テレビ系「おしゃれカンケイ」司会。04~16年「報道ステーション」キャスター。現在、NHK「ネーミングバラエティー 日本人のおなまえっ!」(木曜午後7時57分)司会など。血液型AB。