女優で映画監督の小川紗良(23)が、映画「海辺の金魚」(今秋以降公開予定)で初の長編作品に挑戦している。このほど日刊スポーツの取材に応じ、新作への思い、女優と監督の二足のわらじについて語った。

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小川は昨年NHK連続テレビ小説「まんぷく」に安藤サクラ演じるヒロインの娘、幸役で出演。今期はフジテレビ系「アライブ がん専門医のカルテ」(木曜午後10時)に16日放送の第2話からレギュラー出演する注目の若手女優だ。一方で、早大在学中は同大教授の是枝裕和監督に学び、3本の短編映画を発表。18年の「最期の星」は、若手の登竜門「ぴあフィルムフェスティバル」のコンペティション部門に入選するなど新進気鋭の映画監督でもある。

昨春大学を卒業し独り立ちしたことや、古き良き家族像を描く朝ドラ出演がきっかけとなり、“家族”や“母と娘”について考えるようになった。初長編作では「1人の女の子が、自分の人生を歩み始める瞬間が描きたかった」と話す。

母親がある事件を起こし、児童養護施設で暮らす女子高生が主人公。昨年8月下旬、小川の母の故郷で、自身が大使を務める鹿児島・阿久根市で10日間のロケを行った。スタッフにもこだわり、撮影は「誰も知らない」「花よりもなほ」など是枝監督の初期長編作を担当したベテラン、山崎裕氏(79)に依頼した。年齢差56歳のタッグとなったが、好奇心を持ち続ける山崎氏に刺激を受け「新しい世代に伝えていこうという意識のある方。年齢関係なく心が若々しくて、そういう姿勢を毎日見られたのが私にとって大きな財産だった」と感謝する。

自然な演技を求め、養護施設の子役たちは現地オーディションで選んだ。演技未経験の子どもたちをまとめ上げる苦労もあったが、「子育てと言ったら大げさですけど、撮影期間だけでも子どもたちと過ごすことの大変さと、時々返してくれることへの喜びを感じていた10日間でした」。

女優業の合間に役衣装で脚本を執筆したこともあり、「制服着て書いていましたね」と苦笑する。今作を撮り終えた翌日には、再び女優としてドラマ撮影に入った。両立の苦労は身に染みているが「映画作りは大変なことが99%。でも1%のところで想像を超えた美しい景色が撮れたり、子どもたちとのコミュニケーションの中ですごくいい瞬間が生まれたり。その1%のために撮っている感じです」。

女優としては池脇千鶴、安藤サクラ、蒼井優の自然な存在感に憧れるといい「そこにいる感じがして、人間味がある。地に足の着いた女優になりたいと思います」。監督としては「芸術的なのに普遍的で、どの国の人にも伝わる。映画の理想の形」と、宮崎駿監督と是枝監督の名を挙げた。仕事では2つの顔を意識的に分けるが、プライベートでは混同することも。「映画を見ている時、役者の視点でこういうやり方があるんだって思うこともあるし、作り手の視点でこういうカット割りがあるんだって思ったりもする。ごちゃごちゃですね」と笑う。

幼少期から絵本制作や劇作などに親しみ、根本に「ものづくりが好き」という気持ちがある。二刀流は自然の流れで「高校生くらいの時にひょこっと出てきて、今目立っているのが役者業と映像制作。私の中では、広くものづくりをずっとやっている感じです」。編集は最終段階に入り、映画は今春完成予定。若き才能に視線が集まっている。

◆映画「海辺の金魚」 母が事件を起こしたため、幼い頃から施設育ちの女子高生、花(小川未祐)は、新たにやってきた小学生、晴海と出会い、交流を深めていく。卒業を前に母の記憶に向き合いながら、花は人生最大の選択を迫られる。

◆小川紗良(おがわ・さら)1996年(平8)6月8日、東京都生まれ。19年早大文化構想学部卒。高校時代、雑誌掲載を機にスカウトされ、14年にFM802のキャンペーンソング「春の歌」のMVでデビュー。監督作は16年「あさつゆ」など。女優としては19年AbemaTV「フォローされたら終わり」などに出演。阿久根市は母の故郷で、自身も大使を務める。159センチ、血液型B。