星組のシアター・ドラマシティ(大阪市)公演「ブロードウェイ・ミュージカル 南太平洋」(3月19~30日)に、専科スター轟悠が主演する。太平洋戦争の最中、南の島を舞台に、フランス出身の農園主を軸に、島の海軍看護師の恋や人間模様を描く。相手役は4年目の妃海風。劇団理事を務める轟は、妃海を「ピュアで純粋。かわいい不器用さがある」と評価している。東京・日本青年館大ホールは4月5~10日。

雪組トップを経て専科へ移った轟は、昨年夏に亡くなった春日野八千代さんの後継と期待され、03年に劇団理事に就いた。理事として丸10年。各組へ特別出演し、今回は、星組公演に主演する。「ブロードウェイ・ミュージカル 南太平洋」だ。戦時下の南の島で、海軍の看護婦と恋をするフランス人の農園主を演じる。

「すてきな作品。ストーリーは変わらなくても、セットや衣装は現代バージョンで、テンポアップしてお見せできたらと思います」

作品は、49年にブロードウエーで初演。58年に米国で映画化。宝塚では、84年に月組の剣幸主演で初演された。轟は当時、宝塚音楽学校に在籍中で「初演は見ました。その作品を、まさか」と笑う。主演が決まり、08年ブロードウエー公演の映像や映画を見て、フランス人についても調べた。

「フランスの知人とメールをし、フランス語をしゃべれる同期もリサーチしました。フランス人って、プライドが高くちょっと気取って、という印象ですが、それはパリ人。南国のフランス人は違う、と」

パリっ子とは違うフランス人。南国の島ゆえ、戦時下ながら低い緊迫感。とはいえ、人の心には平時ではない緊張感が潜在する。

「ですから、ただの恋愛ものではない。人種差別や感情のもつれ、成長と、人間ドラマでもあります」

二律背反の世界観に、轟は作品の奥行きを感じる。それゆえ、主人公の男性像にも「大人の男の色気や魅力とともに、女性から見てキュートに思えるかわいらしさも追求したい」と考える。その轟が、今回だけではなく、大人の男をイメージするとき、常に脳裏に描く男性がいる。映画「007」シリーズで初代ジェームズ・ボンドを演じた、ショーン・コネリーだ。

「演じる上でのイメージ。彼の包容力、そこにいるだけで出てくる存在感。でも、一方では、何ともいえないかわいらしさもある。そういうところが大好き。(英俳優の)ジュード・ロウさんも好きですね。男性のいろんな魅力が交ざり合った、あの目元がいい」

世界の名優を参考に、理想の男役像を求めてきた。キャリアを重ねた今、大人の色香、包容力、ワイルド、キュート、純真、美しさと幅広い魅力を醸し出す。今回、ハマリ役だが...。

「そこを悩んでいるんですよね。おけいこで普通にお芝居をしていても、先生から『OKです』と言われちゃう。でも、それじゃいやです! って。やっぱり何かを探していきたい」

高い向上心。それが轟という人。「具体的に言うと、妃海さんのネリーに振り回されたい。それで、平凡に暮らしていた私(の役)に、波風が立つから」。

もともと、舞台に学年は関係ないと感じていた。

「研2(2年目)でも、きっちりと演技をする子もいて、いかに一生懸命努力してきたか。逆に年長でも、役になれずに自分を出しちゃう人もいるから」

4年目の相手役、妃海からは、真っすぐに向かってくる"学ぶ姿勢"を見た。

「彼女は不器用。でもかわいい不器用さ。小器用にできるより、がむしゃらに頑張れる。人間的にはとても素直でピュア。芸に向かう姿勢にも感じる。そういう人間は変化していくから、とても楽しみです」

10年「オネーギン」で相手役に迎えた舞羽美海(前雪組娘役トップ)はその後、娘役トップに就くまで成長した。「私、何もしていませんよ(笑い)。私のやり方は、相手に責任を持たせます。手取り足取りではなく、本人に考えさせて」。今回、後輩の男役には、来年の100周年へ期待が高い若手の真風涼帆がいる。真風は、トップ柚希礼音主演の台湾ツアーに行かず、轟主演舞台に出演する。

「同じ、熊本県人だからかな? あははは。彼女は普段は楽しいけど、おけいこ場に立つと暗い。二枚目と、暗いのは違う。きっちりと役を理解できるようになるまで、まだまだ勉強しなきゃ。でも、火の国出身なので"なにくそ"という根性はある。早くエンジンかけて、進んでほしい」

火の国と称した熊本には、日本3大頑固のひとつを表現する「肥後もっこす」という言葉がある。妥協を知らない男性的な性質を指す。兄と弟がいる轟に「もっこす魂」を聞いてみた。「熊本県人はあったかい。人がいい。優し過ぎて心配になるくらい。でも、お茶は一番煎じしか飲まない、みたいな(笑い)。優しいけど、芯があるんですよね。私も? あははは」。

春日野さんの遺志を継ぐ、永遠の男役スターの根底には、もっこす魂がある。【村上久美子】

 

◆ブロードウェイ・ミュージカル 南太平洋(潤色・演出=原田諒氏)リチャード・ロジャースが作曲、オスカー・ハマースタイン2世の脚本、作詞で、49年、ブロードウエーで初演。翌年、トニー賞最優秀作品賞を受賞し、08年には第62回トニー賞でリバイバル作品賞など、7部門で受賞した傑作ミュージカルをもとに、今回は原田氏が宝塚版として上演する。太平洋戦争の最中、南の島で繰り広げられるフランス出身の農園主エミール(轟)と、島の海軍看護婦ネリー(妃海)との恋を中心に描く。宝塚では84年、剣幸、春風ひとみらにより上演されている。

 

☆轟悠(とどろき・ゆう)8月11日、熊本県生まれ。85年に入団し、「愛あれば命は永遠に」で初舞台。月組配属。88年、雪組へ移り、97年に同組トップ就任。00年「凱旋門」で文化庁芸術祭優秀賞を、02年「風と共に去りぬ」で菊田一夫演劇賞を受賞。02年に専科へ移り、03年、歌劇団理事に就任した。各組公演に特別出演、主演するなどし、一昨年、昨年は喜劇「おかしな二人」に主演。昨年は「エリザベート・スペシャルガラ・コンサート」で外部出演もした。趣味は海外旅行、油彩画、デッサン画。168センチ。愛称「トム」「イシサン」。