作家で女優、歌手の中江有里(47)が小説「万葉と沙羅」(文芸春秋)を出版した。17年から雑誌、新聞に連載したものを加筆、修正した。

通信制高校に1年遅れで入学した沙羅が、幼なじみだった本好きの青年・万葉と再会して、世界が広がっていく青春小説。アイドルとして通信制の都立高校に通い、30代半ばで通信の大学に通った実体験が生きている。

高校生から大学生への沙羅と万葉。青春小説にありがちな恋模様どころか、手さえも握らない。

「2人が、将来は何をしようかって悩んでいるということは、まだ途中なんだと思うんですよね。もしかして、後から変わってくるかもしれないけど、恋愛関係にならない2人にしてるんです。認め合って好きなんだけれど、それは決して恋愛感情ではない。多分、その方が人間関係って続くんじゃないかな。どうしてもそういう風になりがちなんだけど、そうじゃなくて人間同士がつながる。別に恋愛だけじゃなくて、むしろ広い友愛みたいな方が長く続く。好きというのは、いろんな種類があると認識すれば、もっと自由になれる。お互いのこと好きでいていいし、それは恋愛じゃなくてもいいんだよと。恋愛に発展してもいいけど、別にしなくてもいいというのが、今回の中では描きたかったんです」。

作中で登場人物たちは、LINEで連絡を取り合う。現代で生きる人物を描くのに新型コロナウイルス禍を作中に取り入れるかで悩んだ。

「悩んだんですけど、結果的に入れてません。人と人の距離を、どう取るかということですね。この作品は全5編ですけど、真ん中の3編では沙羅と万葉は会っていません。だから会わなくても、人ってつながっていられるということだと思うんです。そして、その媒介してるのが、この本の中では読書ということになっています」

9月には黒人の女性として初の米国副大統領になったカマラ・ハリス氏の自伝的絵本「みんなスーパーヒーロー」(平凡社)で翻訳を手掛けた。昨年からは27年ぶりに歌手活動を再開している。来月26日には東京・渋谷のJZ Bratでライブ「Bon anniversaire!」を開く。

「歌は始まって、すぐにコロナになっちゃった。まだ走りだしてないみたいな感じもあるんですけど。まだ書いてないこともいっぱいあるし、歌もまだまだ始まったばかり。女優はやめたわけじゃないですけど、声をかけていただかないと動いていけない。今もまだ、来年に向けてレコーディングを進めてます。何でもできるんじゃないかなと、体がもつ限りやっていきたいなと思っています」

小説、歌手、女優。どれも現在進行形だ。

(終わり)【小谷野俊哉】

◆中江有里(なかえ・ゆり)1973年(昭48)12月26日生まれ、大阪府出身。89年JR東海のCMでデビュー。90年のTBS系「なかよし」で女優デビュー。91年にはシングル「花をください」で歌手デビュー。92年の日本テレビ系「綺麗になりたい」で、連続ドラマ初主演。95年のNHK連続テレビ小説「走らんか!」ではヒロイン。06年小説「結婚写真」。13年に法大通信教育部文学部日本文学科を卒業。今年1月にアルバム「Port de voix」、9月にシングル「コントレール」「空に星があるように」を発売。