映画界の風雲児と呼ばれたプロデューサーの角川春樹氏(79)が、ジェットコースターのような半生を赤裸々に明かした。20日発売の「最後の角川春樹」(毎日新聞出版)で、映画史研究家の伊藤彰彦氏(60)の延べ20時間にわたるインタビューに応えている。

全盛期では、「人間の証明」(77年)の撮影中にスタッフを殴った松田優作さん(89年40歳没)に土下座させた武勇伝や、この映画の主題歌を歌ったジョー山中さん(11年64歳没)が大麻取締法違反で逮捕されたにも関わらず、テレビCMで主題歌を流してヒットに結び付けた「ぶれない」姿勢を明かしている。

薬師丸ひろ子(57)や原田知世(53)ら角川映画から出たスター女優の発掘では「積極性に欠けるむしろオーディションに向かない子を選んだ」という。

93年にコカイン密輸事件で逮捕された後のどん底については「刑務官や受刑者からどんなに屈辱的な辱めを受けても、私の精神が崩壊しなかったのは、俳句と読書があったからです」。膨大な弁護士費用に加え、98年には4度目の離婚(計6回の結婚歴がある)で1億円以上の慰謝料を支払い、仮釈放中の56歳には住むところまで失った。「歌舞伎座裏のビル2階の7畳一間に背広ハンガーと曼荼羅(まんだら)だけ」という生活だった。この時のさまざまな思いが「男たちの大和」(05年)でのプロデューサー復帰につながったという。

くしくも発売前日には都内で「角川映画祭」が開幕し、「犬神家の一族」(76年)他プロデュース作品が上映される。

◆角川春樹(かどかわ・はるき)1942年(昭17)1月8日、富山県生まれ。父源義氏の後を継いだ角川書店でスパイ小説のフレデリック・フォーサイスを日本に紹介するなどした。71年から横溝正史ブームを仕掛け、映画化した「犬神家の一族」の大ヒットで角川映画旋風を巻き起こす。薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子の角川三人娘をプロデュース。映画製作本数は70本を超える。