西島秀俊(50)を、6年ぶりにインタビューした。

12月28日に発表した第34回日刊スポーツ映画大賞で初の主演男優賞を受賞し、受賞対象作の1つ「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)の作品賞と合わせて2冠を獲得したことを受けての取材だった。

前回、インタビューしたのは、主演映画「劇場版 MOZU」(羽住英一郎監督)公開前の2015年(平27)10月だった。「MOZU」で演じた警視庁公安部の警部・倉木尚武しかり、画面からストイックさがにじみ出る西島に強い興味を抱き、直接、取材する機会を求め続けた末に実現したインタビューだった。その中で西島は、亡き妻と娘の真相を追う自身の役・倉木について「彼は真実を追うためだけに生きている。僕はそこまでなりたいとは思わない」と人生観を語った。一方で「MOZU」の先の俳優としての目標を聞かれ「人生の節目になる、超える作品作りが次のテーマ」と語っていた。

そのことを西島に伝えた上で「ドライブ・マイ・カー」が、人生の節目になる作品になったかと尋ねると「そうだと思います」と即答した。劇中では、妻音(霧島れいか)が秘密を残して亡くなり、喪失感を抱える舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介を演じ、感情を表に出さない難しい役どころを好演。作品が世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭で邦画初の脚本賞を受賞するなど国内外の映画賞を相次いで受賞するのと並行し、西島も米ニューヨーク・タイムズ紙が毎年発表する、今年を代表する13組の俳優にアジアから唯一、選ばれるなど、世界的な評価を高めている。

西島は、自身のキャリアについて「僕は本当に遅咲きと言うか、遠回りしてきた人間なので、もしかしたら皆さん(他の俳優)が20、30代で経験してきたことを40、50代で、ようやく形になりつつあるのかな、これから始まるのかなというふうに思っています」と振り返った。その上で「今、ようやくスタートラインに立たせていただいたんだなというふうに、今回の受賞で改めて実感させてもらっています」と主演男優賞受賞の喜びをかみしめた。

一方で、今後については「僕は欲深いところがある。何か自分で限定するのではなく、いろいろなものをやっていきたい」と多様な作品に挑戦していきたいと語った。その上で「役も当然そうで、『ドライブ・マイ・カー』の家福のように本当に難しい作品もやりたいですし、『きのう何食べた?』みたいに、何でもないような日常の大切さを演じる役…普通の気の弱いお父さんが困難に立ち向かうこともあるでしょうし、カップルの幸せな、時々、ケンカもするような日常の話もやりたいし」と、やりたい役どころを矢継ぎ早に口にした。そして、こう続けた。

「激しいアクションもやりますし…特撮も。全部、やりたい」

西島は今年、配信予定の「仮面ライダーBLACK SUN」(白石和彌監督)で、仮面ライダーBLACK SUN(ブラックサン)こと南光太郎を演じる。ライバルの仮面ライダーSHADOWMOON(シャドームーン)こと秋月信彦役を演じる中村倫也(35)とダブル主演という立ち位置だ。主演が発表された当時、西島は「ヒーローの原型というか、心の中にあるヒーロー像が仮面ライダーなので、演じることが出来ることが本当にうれしかった。もともと、参加したいというのが、ずっとあった。自分にとってベストの形で仮面ライダーの役のお話を頂いた」と語っていた。

西島を取材したのは、折しも同作がクランクインした翌日だったので、50歳で「仮面ライダー」を演じる思いも聞いてみた。「白石監督なので、やっぱり人間の本質を描こう…仮面ライダーを通して人間というものを描こうという、強い、情熱と意志を感じるので、そういう作品になっていくと思います」と作品への印象、思いを語った。その上で、こう続けた。

「えっ!? と驚いていただけるような、いろいろな役に挑戦していきたいと思っています」

西島が受賞した日刊スポーツ映画大賞主演男優賞は、1988年(昭63)にスタートした。その第1回で主演男優賞を受賞したのは「男はつらいよ」シリーズで知られる渥美清さんだった。西島は「第1回、渥美さんなんだと。そうそうたる皆さんが受賞した賞。非常にうれしい」と、渥美さんから連なる系譜に名を記したことを喜んだ。

かといって、50歳になっても落ち着くそぶりはみじんも見せず、挑戦への意欲は燃え上がる一方だ。その姿を、そしてこの先の西島の歩みを、ずっと追いかけていきたくなった。まずは「仮面ライダーBLACK SUN」の撮影が終了した後に、50歳で仮面ライダーを演じきった思いを聞いてみたい。俳優・西島秀俊が、映画と演技の地平を、どこまで広げていくか…映画記者として、楽しみで仕方がない。【村上幸将】