戦後間もない1950年代、各局競って制作し、「君の名は」など放送史に残る名作、傑作も生まれたラジオドラマ。今や忘れられた存在だが、レギュラーや特番で放送を続けているのが、TOKYO FMだ。中には17年も続く人気番組もあるという。なぜ今、ラジオドラマなのか。ラジオドラマは復活するのか。

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ラジオドラマは、1925年(大14)のラジオ放送開始当初から、主要コンテンツとして位置づけられていました。本放送初日の「ラヂオ劇」こそ、舞台演劇をそのまま電波に乗せたものでしたが、翌週には、日本初のオリジナルラジオドラマ「大尉の娘」が放送されています。放送を重ねるにつれ、セリフ回しや劇伴、効果音の作り方も次第に洗練されていきます。戦後はNHKの「君の名は」(52年)が大ヒット。映画化、小説化され、今で言うメディアミックスの先駆けになります。民放でも「少年探偵団」(56年、ニッポン放送)、「赤胴鈴之助」(57年、ラジオ東京=現TBSラジオ)など子供向けの作品が人気を博します。戦後間もない50年代が、ラジオドラマの全盛期でした。

60~70年代には、多重録音など録音技術の革新やシンセサイザーなど電子機器の登場で、新しい音作りが試みられます。寺山修司や谷川俊太郎、坂本龍一といった気鋭の文化人がドラマ制作に関わり、意欲的、実験的な創作を追求する動きもありました。しかし、お茶の間の主役は、すでにテレビに移っていました。ラジオドラマで新しい音の表現を開拓しようという意欲が、放送界から失われていきます。NHKは今もレギュラーでラジオドラマを放送していますが、ほとんどの民放局は、商業ベースには乗らない作品をコンクール用に年1本作るかどうか、といった状況が長く続いています。

しかし、ラジコやポッドキャストなど配信で音声コンテンツを聴く文化が、ラジオドラマの将来を変えるかもしれません。ラジオは長い間、オンタイムの放送を「ながら聴き」するメディアで、じっくり聴かないと楽しめないドラマやドキュメンタリーには向かないと考えられてきました。でも、タイムフリーや配信なら好きな時に何度でもじっくり聴いて楽しむことができます。

日芸放送学科では、今も学生にラジオドラマ制作を課しています。「ここは宇宙です」と言えば、そこが瞬時に宇宙になる。鳥を主人公にすれば、空中から人間界を見下ろす視点で描ける。映像で作ることが難しい場面や状況を作れるラジオドラマは、学生の発想力、表現力、制作力を磨くのに適した手段だと考えているからです。映像であふれる時代だからこそ、これからの放送に携わる人たちには、音だけで表現するラジオドラマの可能性に挑戦して欲しいと思っています。(茅原良平・日大芸術学部放送学科准教授)