今年7月8日に安倍晋三元首相銃撃事件を起こした、山上徹也容疑者(42=殺人容疑で送検、鑑定留置中)を題材に描き、安倍氏の国葬前日の9月26日と当日の同27日に、緊急特別上映版が都内ほかで上映された映画「REVOLUTION+1」の完成版が完成した。配給の太秦が8日、発表した。

さらに、24日からシネマ・ジャック&ベティ(横浜)、第七藝術劇場(大阪)、シネマスコーレ(愛知)での劇場公開が決定。劇場公開に先立つ13日には、都内の日本外国特派員協会で、完成版の初披露となる試写会を開催する。

「REVOLUTION+1」は、足立正生監督(83)と共同脚本の井上淳一氏(57)が、7月8日に発生した安倍氏の銃撃事件直後に企画。報道を元に3日で脚本の初稿を書き、その後も随時、報道を受けて7稿まで改定して脚本を作成。撮影は8月末に8日間で行い、国葬当日までに上映が間に合うよう映像を編集した、約50分の緊急特別上映版を製作。国葬前日の9月26日に東京・新宿と茨城で先行上映し、翌27日には渋谷のほか名古屋、新潟2館、長野2館、京都、沖縄2館のみで上映した。

映画は、冒頭から安倍元首相が銃撃された当時のニュース映像に、主演のタモト清嵐(そらん=31)が演じる山上容疑者をモデルにした川上達也を描いた、ドラマパートを絡めて物語を展開していく。宗教2世の苦悩も描かれる中で、安倍元首相のスピーチの映像が絡み、同氏の幼少期や青年時代の写真、祖父の岸信介氏、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の創立者・文鮮明氏らの写真も、川上の室内に貼られる形で登場する。

緊急特別上映版の上映決定、そして上映された当初は、未見の人が多いであろう状況だったが、賛否両論が沸騰した。山上容疑者本人を英雄視したり、礼賛するような映画ではないか? などの臆測に加え、映画の製作、公開自体が不謹慎との批判や、同容疑者本人をはじめ直接、取材しないのか? など疑問の声もあった。緊急上映を行う劇場にも抗議が入り、9月29日に上映を予定していた鹿児島の映画館は、テナントに入っているデパートに長時間の抗議電話が入ったことで上映中止に追い込まれた。一方で、1回限りの上映だった名古屋と沖縄の映画館が上映回数を増やした。

国葬当日に行われた渋谷での、上映後のトークの中で、タモトは完成版の製作に向けて「追加撮影があると聞いています」と明らかにしていた。足立監督も「本編の編集は90%終わっている。部分修正のものと最終的に足りないと思ったものを1、2日、やるだけ」と認めた。完成版の尺は約80分との見通しも示されていたが、75分に収まったという。製作サイドは、完成版の完成にあたり

「容疑者の犯行を人はテロと呼び、民主主義への最大の挑戦と呼んだ。しかし、それは本質をついているだろうか。この犯行をきっかけとして、政治家と統一教会の尋常ならざる癒着ぶり、保守を標榜(ひょうぼう)する政党の爛熟(らんじゅく)の果ての退廃ぶりが公にさらされた。この映画はもちろん、その是非を問うものではない。しかし、シングルマザー、宗教2世、派遣労働と、この国の貧困を体現してきた1人の男が自分と対極にある1人の男に銃を向ける、それに至る過程を描くことで、この国に決定的に欠けているものを知らしめることになることを望む」

などと製作及び劇場公開の意図と意義を改めて説明。足立監督は「映画表現者は、現代社会で起こる見過ごせない問題に、必ず対峙(たいじ)する。この映画を作ったのも、その一例で、事件発生の中にある見逃せない物語を紡いだものだ」とのコメントを発表した。