昨年の大みそかに放送された「第73回NHK紅白歌合戦」の視聴率が、新年2日、ビデオリサーチから発表された。もちろんビデオ社も正月休み。通常なら土曜、日曜、祝日は動かないが、誰もが国民的番組である紅白の視聴率を気にしているため、昔から、特例で、休みにもかかわらず数字を発表し続けている。
国民的番組と書いたが、紅白が並の番組の数字になってしまったら、もしかしたら、2日の発表がなくなるかもしれない。
とりあえず、数字だけ記してみる。
第2部(午後9時から)の平均世帯視聴率は、関東地区で35・3%、関西地区は36・7%だった。過去最低だった前年の34・3%から1ポイント上げた。午後7時20分からの第1部は、関東地区は31・2%、関西地区は30・2%だった。個人全体視聴率は第1部で関東地区は23・0%、関西地区23・8%、第2部は関東地区で26・0%、関西地区は28・0%だった。
この数字をどう捉えるかによって、ニュアンスが変わってくる。昨年よりは上がったので、健闘とみることもできる。でも、アップしたのは1ポイントなので、歴代ワースト2ではあることから、“オワコン”と否定することも可能だ。
そもそも、現在はテレビを見る人が減っている。テレビ局の株を保有するビデオ社は、テレビの媒体価値の低下を公開したくないこともあり、HUTやPUTを公開していないが、日本全体のテレビを見ているパイが減っているのは誰もが認めるところ。放送局の関係者によると、00年代に比べると、ゴールデン帯のHUTは10ポイントほど減っているという。全体のパイが低いのだから、たとえ紅白がどう頑張っても、世帯視聴率で40%や50%の数字を獲得するのは難しい。
今回も2部の個人全体視聴率は26・0%(関東地区)で占拠率は58・0%だ。平均で100人のうち、58人は紅白を見ていたことになり、テレビを見るうちの、かなりの人を引きつけたとも言える。
個人的には、今回の紅白は大健闘だったように思う。
確かに、放送前、ネット世論の中で語られていたように、歌唱された楽曲の中で、知っている曲は数少ない。おじさん世代なので、私自身もカラオケで歌えるのは「桜坂」「天城越え」「夏色」くらい。そうそう、あと、ユーミンと加山雄三は別にして。K-POP系のアーティストが多すぎるとか、知らないミュージシャンが何で出場するんだという声もあった。
でも逆にいえば、ウォークマンの誕生以降、音楽が個人の中で、人に知られず聞かれるようになってから、誰もが知っている楽曲は減ってきている。ちまたのヒット曲が多すぎて、レコード大賞を誰が獲得するのかドキドキしていたのは、もはや昭和時代の遺産だ。つまり、誰が紅白に出場しても、アンチの声は浴びるということだ。
それならば、紅白が持続する意味は何なのだろう。個人的には、いわゆる分断の解消に向けてのエンタメだと考える。
昨今の世の中は分断だらけだ。アメリカのトランプ前大統領をめぐる米国内の分断をはじめ、新型コロナウイルスのワクチンの是非、東京五輪の開催、安倍元首相の国葬などなど。さらに、正規雇用と非正規雇用の格差、子どもを産むか産まないかも一種の分断だと思う。つまり、経済格差、男女格差、学歴格差、地域格差など、挙げればきりがないのが今の社会だ。
そんな世の中だからこそ、少しでも分断の解消へ、お互いを理解しあえる媒介として、エンタメがあっていいのではと思う。なにせ、NHKは公共放送なのだから。
では、今回の紅白のどこに希望を見いだしたかを書いてみる。
まずは「怪獣の花唄」を歌唱したVaundyだ。音楽担当として恥ずかしいが、ネットで確認したことがあっただけで、生歌唱を見るのは紅白が初めてだった。圧倒的な歌唱力に裏付けされたリズミカルな楽曲を正確に歌いあげる。さらに「そんなもんかい、紅白。行けるよな。行くぜ、ニッポン!」と、会場にカツを入れる姿勢も好きだ。さらに、歌唱力に定評ある、若手女性アーティストmilet、Aimer、幾田りらの3人を束ね「おもかげ」も披露。4人が醸し出す歌声に、彼のプロデュース力の素晴らしさを感じざるをえなかった。
司会者の橋本環奈がVaundyのファンだと語っていたように、若い世代にとっては当然のパフォーマンスなのだろうが、おじさん世代には驚きだった。
その一方、安全地帯の玉置浩二の歌唱は、逆に、若い世代のハートを射止めたのではないかと思う。録画であったことはやや残念だが、パフォーマンスとしては完璧。「I Love Youからはじめよう」は発表されていたが、その前に玉置が弾き語りで歌った「メロディー」は鳥肌もの。きっと、誰もがその声量や歌唱力に打ちのめされたのではないだろうか。
Vaundyと玉置浩二。この両者が同じステージに立てるのが、NHK紅白歌合戦なのだ。どんな世代の人も、この番組を見て、「あーこれ、いいねぇー」って、それぞれの歌手をリスペクトできたら、それは幸せなことだと思う。
やや褒めすぎたかもしれないが、出場歌手と特別枠の違い、生歌唱と録画の違いなどなど、突っ込みどころはある。さらに、BSを含めて月額2000円を半ば強制的に集金するサブスクのコンテンツとして必要なのかどうかなど、公共放送の議論は別にして、昨年の紅白は合格点だったように思う。【竹村章】



