劇団民藝代表で、女優奈良岡朋子(ならおか・ともこ)さん(本名同じ)が23日午後10時50分、肺炎のため東京都内の病院で亡くなったことを29日、同劇団が発表した。93歳。

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ザ新劇女優、戦後間もない48年に民芸の研究生となり、実に75年近くも第一線の女優として活躍した。宇野重吉、滝沢修という新劇の両巨頭が亡くなった後は劇団代表として難しいかじ取りを担った。

独身を貫いたけれど、交友関係は多彩だった。杉村春子さん、森光子さんという大女優だけでなく、石原裕次郎さん、美空ひばりさんとも親しく付き合った。時に厳しいことを言う、奈良岡さんの正直さが愛された。

晩年の主演舞台で、せりふがおぼつかない時があった。以降に出演する舞台では奈良岡さんは率先して脇役にまわり、台本を手にした朗読劇を行うようになった。自らの限界に向き合う賢明な人だった。

今年も10年前から始めた朗読劇「黒い雨」を公演する予定だった。広島の原爆投下後に降った黒い雨を浴びた人たちの悲劇を描いた作品。戦争を体験した世代の使命、ライフワークとして準備していた矢先だった。奈良岡さんは最後まで女優だった。【林尚之】