趣里(32)が、塚本晋也監督(63)の5年ぶりの新作映画「ほかげ」(11月25日公開)に主演することが11日、分かった。

10月2日スタートのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」でヒロインを演じる趣里にとっても、18年の「生きてるだけで、愛。」以来5年ぶりの主演映画となる。「憧れの塚本組。一生忘れられない経験をさせていただきました。最高のキャスト、スタッフさん、そして塚本監督と映画作りが出来たことが本当に幸せです」と格別の思いを口にした。

「ほかげ」は、塚本監督が自ら脚本も手がけたオリジナル作品。同監督は「終戦企画と銘打って準備撮影を進めた。世界の動きが怪しくなってきた今、どうしても作らずにはおれなかった、祈りの映画になります」と趣旨を説明した。

趣里は劇中で、戦争で家族をなくし、焼け残った居酒屋で体を売って生きている女を演じた。喪失感にさいなまれながらもその日その日を暮らしている中で、期せずして出会った戦争孤児との関係にほのかな光を見いだしていく役どころだ。「たくさんの心に留めておかなければならないことを教えていただきました。一瞬一瞬の感覚がいとおしく、悲しく、今でも忘れられません」と撮影を振り返った。塚本監督は「少女のような容姿の中に、限りない可能性を秘めている。役そのものに完全に同化し、とてつもなく大きなエネルギーを発する。本物の俳優にお願いしたいと思った」と、趣里を主演に起用した理由を語った。

戦争孤児と関係のある、片腕が動かない謎の男を森山未來(38)が演じる。森山は「戦後の騒乱をさまよう報われない魂たち。そんな生きた亡霊たちを執拗(しつよう)に追い続けるまなざし。荒廃した世界で必死に生き延びようともがく主人公の無垢(むく)な瞳を通して見える世界は、塚本監督のまなざしそのものであり、あるいは、あなたの目に映る、私たちが生きるこの世界に対する視座でもあるのかもしれません。このような素晴らしい作品に関わらせていただけたことを、心からうれしく思っております」とコメントした。

塚本監督は、日本兵による人肉食にも触れた、大岡昇平の同名戦争文学「野火」を14年に自主製作で映画化。18年には、太平の世が揺らぎ始めた幕末を舞台に生と暴力の本質に迫った、脚本も手がけた初時代劇「斬、」を製作、公開した。戦争を民衆の目線で描き、戦争に近づく現代の世相に問う「ほかげ」を「『野火』『斬、』の流れをくむ作品」と位置付け「研ぎ澄まされた感性の趣里さんと森山未來さん、そして新しい才能と魅力的な俳優さんたちが、終戦直後の火と影の世界を生きてくださった」と2人に感謝した。

「野火」と「斬、」は世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭(イタリア)で最高賞の金獅子賞を争うコンペティション部門に出品された。「ほかげ」も、海外の国際映画祭への出品を目指し、水面下で動きを進めている。