次世代を担う若手監督を顕彰する映画賞「第5回大島渚賞」授賞式が18日、都内で行われ、花瀬琴音(21)主演「遠いところ」の工藤将亮監督(40)が受賞した。

映画の未来をひらき、世界へと羽ばたこうとする、若く新しい才能に対して贈られる賞で、2019年に一般社団法人PFFが設立。第1回から審査員長を務めた故坂本龍一さんの逝去を受け、今回から映画監督の黒沢清氏(68)が同職を務めている。黒沢氏は「坂本さんは映画に向けても情熱的な人で、同時に厳しくもありました。これはダメですとハッキリ言う時は言う。今回選んだ『遠いところ』は坂本さんも文句ないと思います。自信を持って選ばせていただきました」と語った。

「遠いところ」は沖縄の若年層を取り巻く貧困やDVなどの状況を描き、花瀬が撮影当時17歳ながら一児の母としてキャバクラで働く主人公、アオイを熱演。初のぬれ場シーンにも挑戦した。花瀬ら一部の出演者はクランクインの約1カ月前から沖縄入りし、作中でアオイと夫のマサヤが暮らしていた家に実際に住み込んで方言や現地の人々の生活を体になじませた。

黒沢氏は作品について「単に主人公を引き立てるだけでなく、沖縄や日本社会のあるところを冷然と表現していた」と評価。主人公に手を差し伸べる人々などのキャラクターに触れつつ「最後のシーンでは『かわいそうに』というレベルではなく、手を差し伸べてくれる人もいたのに、どうしてこうなってしまったのかと憤りさえと感じさせるものでした。これがこの映画のすごいところだと思います。また、沖縄の風景、主人公の住んでいる家、吹き込む風などの自然、登場人物など、それぞれの関係が非常に繊細に表現されていました」と語った。

トロフィーを受け取った工藤監督は「まだまだ未熟で情けない監督に、このような賞をいただき、育ててくれてありがたいなと思っております」とあいさつした。

主演の花瀬も登壇し、工藤監督から花束も贈られた。花瀬は「監督、おめでとうございます」と祝福し「工藤さんは撮影の時に『監督と呼ぶな』と言ってくださって。『俳優がどうとか、監督がどうとかで撮影を進めていくつもりでやりたいわけじゃないから』と説明してくださった。とてもその言葉に助けられて役作りができましたし、人の心に寄り添ってくれる方だなと思っています」と振り返った。

花瀬は今回の役をオーディションで勝ち取っていた。「工藤さんに見つけていただいて、それを自信にして宝物にしてこれからもすてきな映画作りに精進していけたらなと思います。本当におめでとうございます」と笑顔で話した。

矢内廣理事長、大島新監督も登壇した。