行定勲監督(57)が、16年4月の熊本地震で被災した故郷の復興のためディレクターを務め、翌17年3月に熊本市と菊池市でスタートした、くまもと復興映画祭が今年で9年目を迎えた。このほど、日刊スポーツの取材に応じ、くまもと復興映画祭2025と題し21、22日に熊本市内の市民会館シアーズホーム夢ホールで開催する今年の映画祭と、26年で被災から10年となる熊本で映画祭を続ける意義を語った。
くまもと復興映画祭は、「熊本地震の復興にまい進する熊本に映画の力で元気を与えたい」という思いから、行定監督が14年からディレクターを務めた同県菊池市の菊池映画祭を前身として立ち上げた。今回は、福士蒼汰(32)と福原遥(27)がダブル主演する監督作「楓」の公開を12月19日に控えており、くまもと復興映画祭9年の歴史で初めて自身の新作を上映する。「自分の映画が公開されるタイミングでの開催が初めて。オープニングで上映します」と笑みを浮かべた。
映画祭で上映する映画は、自らセレクトしてきた。特に今回は「今後…来年以降もそうなのですが、自分がワクワクできるかどうか」にこだわり、公開中のアニメ映画「ひゃくえむ。」(岩井澤健治監督)、「海辺へ行く道」(横浜聡子監督)、「次元を超える」(豊田利晃監督)に加え、26年1月23日に公開を控える「黒の牛」(蔦哲一朗監督)の4本を選んだ。「『ひゃくえむ。』は、アニメーションと映画の間にあるような非常に良い映画。岩井澤監督とは、一映画ファンとして話してみたい」と目を輝かせた。また「蔦監督は、自分が撮りたいものを追求している」と評価し「こういう映画があるんだと、声高に言いたい」と力を込めた。
強い思いの裏には、興行収入(興収)166億5000万円と日本映画史に残る歴史的ヒットを続ける「国宝」(李相日監督)の存在がある。「『国宝』の記録的ヒットで、映画業界が盛り上がっているのは喜ばしいこと。こうして観客動員を伸ばすことが(配信などが普及した現代においても)あるんだと、日本の映画人にとっては希望になる」と歓迎した。
一方で「観客の間で、皆が見に行っているから、自分も見に行くというムーブメントになっている面も多分にある」と指摘。「業界としてはありがたいし一見、盛り上がっているように見えるけれど、それ以外の独創的な作品に観客の目がいかなくなっている面もある」と続けた。「映画祭がやれることは、見て欲しい映画、見るべき映画を観客に届けること。そうした作品に触れた時、映画って面白いと思って欲しい。届けたい作品を、作り手の思いを含め観客に届け、つないでいくこと」と強調した。
5日には、国際映画製作者連盟(FIAPF)公認でアジア最大級の映画祭と言われる、東京国際映画祭が閉幕した。行定監督は「大きな国際映画祭とは違い、くまもと復興映画祭のような小さな映画祭だからこそできることがある」と訴える。
「『国宝』が大ヒットしたことで、選んでいないであろう…でも、見て欲しい作品を観客に見てもらい、日本映画の多彩さを感じて欲しい。そういう視点で、僕がディレクターとして選んだ4本を上映することで、大きな映画祭にはない個性が出ます」
「作り手の間でも、大きく成功した作品の成功例に沿っていく動きが出てくるのは否めない。今回、上映する4本は、自分じゃ絶対に撮れないというリスペクトのもと、こんな面白い映画がある(個性があり)ちょっと違うんだぜ、という思いで選んでいます。そうした視点で作品を選び、上映する小さな映画祭が日本各地で継続されることで、日本映画の多様性が出てくると考えています」
映画祭を続ける思いの根底には「地震のことを省みる。映画祭に集まった人には、忘れないようにしたい」という、来年で熊本地震発生から10年を迎える故郷・熊本への思いがある。「日本は災害が多い。地震だけでなく、近年は九州の近隣の地域でも豪雨被害があった。映画祭で収益が上がれば、気持ち程度でも近隣で被災した地域のお役に立てるように…という思いはある」。復興していく熊本とともに歩いてきた、くまもと復興映画祭だからできる支援、地域で人の輪を作っていくことへの意欲も口にした。【村上幸将】



