記者の目 4月23日の完成報告会から取材できる機会は大方、足を運んだ。興収、動員が急伸していく中で、驚異的なヒットの要因は何かと考え、探ってきた。10月30日に東京国際映画祭で行われた李監督との対談中で、山田洋次監督(94)が指摘した分析を聞き、取材を積み重ねた中で考えていたことと一致した。
山田監督は「2人の男の話が柱だと普通、女性が介在し三角関係になる。この映画は芸と血筋という、どうしようもない不条理なものが間にあり2人が苦しむ。劇的な構造で、そんじょそこらとは違う」と絶賛。李監督は「吉田さんの発明。血筋、芸の対立軸ができ、嫉妬ではなく苦しみを分かち合い、人生がシーソーのように入れ替わり、最終的に同じ人生を共有する。女形のミステリアスさで美しさが強調される」と原作が優れていると評した。
ただ、歌舞伎の稽古だけで1年半もかける映画は昨今、まずない。かつ本職でも所作が難しいとされる女形が題材だ。李監督が「僕1人では背負えないので、背負う仲間に引き入れた」と声をかけたのは、観客として「悪人」を見て感嘆し、同監督が吉田氏の小説を映画化した2作目の16年「怒り」のオーディションで苦杯をなめた吉沢だった。
吉沢も李監督が「半年、稽古を見学に行って何もできず頭痛がした」と振り返るほど苦戦。「心が折れる瞬間があった」と明かしつつも「彼が奮い立たせてくれた」と横浜に感謝した。李監督は「数字が騒がれますけど、美しい映画として届くことを願っていた」と一貫して口にし続けた。その思いを俳優、製作陣が「背負い合い、やればできた」無欲の新記録達成だった。【村上幸将】



