<復刻版:98年2月21日付の日刊スポーツ>【ボルダー(米コロラド州)19日(日本時間20日)=南沢哲也】アトランタ五輪マラソン銅メダリストの有森裕子(31)が、涙で別居会見した。有森はこの日、1月14日に結婚したばかりの夫ガブリエル・ウィルソンさん(32=学校職員)とともに当地のホテルで会見。「これ(別居)が、立ち直るためのラストチャンス」と話した。初めて公の場に現れたガブリエルさんは、金銭トラブルの事実を認めるとともに「昔、私はゲイだった」と告白した。有森の顔に、いつもの笑みはなかった。不安そうに大きく開いた目。真一文字に結んだ口。言葉は、途切れがちに震えた。二人がクリスマスの夜をともに過ごし、結婚を祝うパーティーも開いたホテル「ボルダーラド」。有森は、憔悴(しょうすい)し切った表情で会見に臨んだ。有森がまず、夫の金銭トラブルなどが原因で披露宴などを中止したことを明かした。そしてガブリエルさんが「日本で言うところの“ベッキョ”を選んだ」と話した。有森は自ら「別居」を口にすることはなく、夫の目を見ながら横でうなずくだけだった。有森の目から大粒の涙がこぼれ落ちたのは、質問が夫の金銭トラブルに及んだ時だった。「これまでも、お金の面など不安に思ったり、不信感はあった。でも去年1年というのは……、私の中では……、それなりの(幸せな)時間だったものですから……」。せき止めていた感情が崩れた。ガブリエルさんと知り合ったのは、CM契約問題で日本陸連と対立した時期。ボロボロになった心をいやしてくれたのが、ガブリエルさんだったのは確かだ。しかし、一方で多くのトラブルを抱え、それを隠し続けていたのも事実だった。「彼自身、多くのウソをついてきた。多くのことから逃げてきた。決していいとはいえないけれど、私が出会った時からの……、彼が自分に与えてくれた気持ちに……、ウソはないと思っています……」。涙で、言葉は続かなくなった。泣く有森をじっと見つめるガブリエルさんには、ボルダーだけで金銭滞納の訴訟が6件出ている。未解決も2件ある。金銭問題に関して、ルーズな点があったことで、有森は当初から不信感を持っていた。「これは自分の問題だ。申し訳ない」とガブリエルさんは英語で繰り返した。しかし、どうして同じ過ちを繰り返したのか。肝心な質問に答えることはなかった。煮え切らないガブリエルさんの態度に、さらにプライベートな問題も追い打ちをかける。「私は昔、ゲイ(同性愛者)だった」。ガブリエルさんは告白した。近く発売される週刊誌に明かされることを知り、先に自ら認めた。「これは、付き合う前に、彼ら(有森と有森の両親)に話をしている。彼らは、気にしないと理解してくれた」。別居の原因ではないことを強調した。さらに「ゲイだとか、バイセクシュアルだとかは、だれにでも可能性のあること。この問題については、これ以上答えない。私のプライベートについていろいろ言われるが、真実もあれば、ウソもある」と日本のマスコミに対して強い口調で憤慨してみせた。有森は「日本では、別居の先に離婚があるとネガティブに考えるが、イッツ・オーバー(これで終わり)でも何でもない。その先にいいものが来るように時間をかけたい。二人ともそれを信じ、ラストチャンスと考えたい」と結んだ。「3月にはトレーニングを始めます。大島にも行きます」と、あえてシドニー五輪への意欲も口にした。日本スポーツ界のヒロインと、ボルダーの一青年との電撃国際結婚からわずか37日。別居という選択の先にあるものを、二人は探している。しかし、二人の歯車は、かみ合っているようには見えない。