歌舞伎俳優市川海老蔵(33)が殴られ全治2カ月のけがを負った事件で、警視庁は10日夜、傷害容疑で職業不詳、住居不詳の伊藤リオン容疑者(26)を逮捕した。警視庁によると「殴ったことは間違いありません」と容疑を認めている。伊藤容疑者はJリーグ東京Vのジュニアユースに所属した経歴を持ち、東京・六本木を根城にする元暴走族グループのメンバーだった。殴った原因には海老蔵の挑発的行為があったとの疑いも浮上しており、警視庁は伊藤容疑者にトラブルの経緯などを厳しく追及する。

 海老蔵が11月25日未明に暴行され、左頬陥没骨折など全治2カ月の大けがを負ってから2週間。伊藤容疑者はこの日午後8時前、捜査を担当する警視庁の捜査員に「出頭したい」と電話で連絡。その後、捜査員が都内の路上に1人でいた同容疑者に任意同行を求め、警視庁の本部で逮捕した。

 身柄は午後9時11分に目黒署に移送された。同署前で待ち構えた100人を超える報道陣のフラッシュを浴びる中、捜査車両の後部座席にふんぞりかえった伊藤容疑者は顔をそむけたり、悪びれることもなく、報道陣をにらむようなしぐさも見せた。歩いて署内に入る時も笑みを浮かべた。午後10時50分、Tシャツ姿で報道陣を威嚇するような目つきの伊藤容疑者を乗せた車両は警視庁に戻った。警視庁によると、伊藤容疑者は「殴ってしまったことは間違いありません。細かいことは後で、気持ちを整理して話します」と供述し、容疑を認めている。

 伊藤容疑者は25日未明から、海老蔵や仲間の元暴走族のリーダーら数人と東京・西麻布の雑居ビル11階の会員制飲食店で飲んでいた。その際に海老蔵とトラブルになり、殴る、蹴るの暴行を加えて、大けがを負わせた疑い。

 海老蔵は28日に被害届を提出。警視庁も29日に逮捕状を取ったが、所在が分からず、伊藤容疑者も電話で出頭を勧める友人に「面倒くせえ」と拒否していたという。警視庁は関係者に出頭を促すよう要請。海老蔵の退院・会見を待つなど、逮捕のタイミングを見計らったとの見方もある。米国人の父と日本人の母をもつ伊藤容疑者は99年ごろまで東京Vのジュニアユースに所属したが、その後、杉並区を拠点とする元暴走族グループのメンバーとなった。結婚しており、双子の幼い子供もいるという。

 トラブルの経緯について、海老蔵は警視庁の事情聴取に「知人の酔った元暴走族リーダーを介抱していたら、別の男にいきなり後頭部を蹴られ、殴る、蹴るの暴行を受けた」と話している。一方、目撃者や店関係者の話として、海老蔵がリーダーの男の髪を引っ張ったり、酒を頭からかけたり、テキーラを無理やり飲ませようとしたと、一部で報じられている。

 しかし、海老蔵は今月7日の会見で暴力をふるったことには「そのようなことは一切ありません」と否定。当初の聴取でリーダーを「知人」としたが、リーダーを含め「面識がなく、初めて会った。怖いと思ったが、すぐに離れることはできなかった」。「私は被害者」と主張した。

 伊藤容疑者は警視庁の調べに、6階の飲食店で、海老蔵のリーダーに対する言動に腹を立て、11階の飲食店に戻り、店内や外階段で暴行に及んだ、などと供述しているという。

 また、一部では「海老蔵が先に手を出した」との関係者の証言や、リーダーも海老蔵に暴行され、医師から全治2週間の診断を受けたと報じられている。さらに海老蔵は当初の聴取で殴られた相手を1人と話したが、会見で「複数の人間に殴られたと思う」と説明するなど、警視庁の聴取と会見では違う部分もある。

 警視庁は、伊藤容疑者に暴行に至った経緯や当時の状況などについて厳しく追及するとともに、事件の解明を進める方針だ。

 [2010年12月11日13時9分

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