今年の夏の甲子園は、履正社(大阪)の初優勝で幕を閉じた。地方大会から始まって、最後まで勝ち続けられるのはたった1チーム。

それでも高校球児たちは、かけがえのない時間を過ごしてきたのだと思う。

先日、阪神新井良太2軍打撃コーチ(36)に、高校時代について聞く機会があった。新井コーチは広陵(広島)3年の時にセンバツに出場。夏は広島大会で敗退した。

広陵は寮生活。野球漬けの日々を送り、テレビは寮の食堂に1つあっただけだった。しかも夜ご飯を食べた後は、練習場所を奪い合うように急いで自主練習に向かい、ほとんどテレビを見ることはなかったという。当時はやっていたツインボーカルユニット、CHEMISTRY(ケミストリー)について、新井コーチは「同じクラスの友達がふざけて『芸人だよ』って言うから、ずっと芸人だと思ってた」と笑って振り返った。

全てが野球のための2年半。食生活だって、お菓子や炭酸飲料を取らないなど制限される。素人ながらに大変だな、と思ったが、新井コーチの答えは違った。「年末とかの休みに家に帰った時ぐらいしか食べなかったけど、コーラとかチョコパイとかうまいなと思ったけど、もっと食べたいとかは思わなかった。そういう欲がなかったよね」。

テレビやお菓子より、大事なものがあった。「(広陵監督の)中井先生を男にしたい、甲子園に行きたいっていう欲のほうが強かった。それぐらい熱くなるのが、高校時代で青春だよね」。野球にささげた2年半は、何にも代え難い時間。今年の高校球児たちも、いつかそう振り返る日が来るのかなと、ふと想像した。【阪神担当 磯綾乃】