あのときと同じ光景だった。阪神横田慎太郎外野手(24)が、守備位置まで全力疾走する。到達したセンターのポジションで、感無量の表情を見せる。脳腫瘍の影響で、今季限りでの引退を決めた横田が「職場」に戻った瞬間だった。

ドラマは作られるものではなく、生まれるものだった。26日の引退試合。1096日ぶりの仕事場で、魂のバックホームを見せた。8回2死になると、平田2軍監督が選手交代を球審に告げた。「センター、横田」。鳴尾浜は拍手の渦に包まれた。「代わったところに打球は飛ぶ」。そんな言葉があるように、交代直後に打球が飛んだ。1度目は頭上を越されてのクッションボールの処理。カットマンまで正確な送球だった。直後だ。同点の2死二塁で、センター方向にライナーが飛ぶ。横田が前に突っ込んできた。ワンバウンドで捕球すると、思い切り左腕を振ってバックホーム。ノーバウンドで捕手のミットまで届き、タッチアウト。「ボールが二重に見える」と話していただけに、信じられない光景だった。きっと「神様」に、そっと背中を押されたに違いない。

諦めなければ目標は達成できる。横田は練習から手を抜かなかった。外野ノックを受けても落下地点がわからず、打球を見失うことも多々あった。それでも表情を変えず「もう1本!」とノッカーに要求する日々だった。

躍動感は、あのときと同じだった。「超変革の申し子」として期待された16年。3月25日の開幕戦には「2番センター」で抜てきされた。1軍に生き残るため、凡打を放っても全力疾走。アウトのタイミングでも一塁にヘッドスライディングする懸命な姿があった。

6年間の現役生活。最後の職場は、慣れ親しんだ「センター」だった。苦しみ、悔しみ、ときには悲しさも味わった。それでも脳腫瘍を乗り越えて、本来のポジションに戻ってきた。横田慎太郎は「プロ」だった。最後まで、グラウンドで勝負した。そして…。どれだけ泣いてもいいドラマを、命がけで生んだ。【阪神担当=真柴健】

19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、塚田正義の中前安打を本塁へ送球し水谷瞬を刺す横田慎太郎(撮影・上田博志)
19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、塚田正義の中前安打を本塁へ送球し水谷瞬を刺す横田慎太郎(撮影・上田博志)
19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、塚田正義の中前安打を本塁へ送球し水谷瞬を刺す横田慎太郎(撮影・上田博志)
19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、塚田正義の中前安打を本塁へ送球し水谷瞬を刺す横田慎太郎(撮影・上田博志)
19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、塚田正義の中前安打を本塁へ送球し水谷瞬を刺す横田慎太郎(撮影・上田博志)
19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、塚田正義の中前安打を本塁へ送球し水谷瞬を刺す横田慎太郎(撮影・上田博志)
19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、生還を狙う水谷瞬を刺し板山祐太郎(右)とハイタッチして雄たけびをあげる横田慎太郎(撮影・上田博志)
19年9月26日 8回表ソフトバンク2死二塁、生還を狙う水谷瞬を刺し板山祐太郎(右)とハイタッチして雄たけびをあげる横田慎太郎(撮影・上田博志)